SF 不思議 Sci-Fi & Fantasy
第一章:塵の海を往く老兵 灰色の砂嵐が、宇宙戦艦「アイアン・デューク」の厚い装甲を激しく叩いている。そこは、かつて数千億の生命が息づいていた大銀河の中心部ではなく、強力な素粒子兵器の無差別投入によって、すべての天体が原子レベルで粉砕された暗…
第一章:暗黒の揺りかご その場所には、音というものが存在しない。宇宙船『アイギス号』の最下層にある冬眠室。そこには、何百もの細長いカプセルが、まるで巨大な昆虫の卵のように整然と並んでいて、カプセルの表面は薄い霜に覆われ、内部からは青白い光が…
第一章:遮断された天球 世界に「影」という概念は存在しない。正確には、地上に届くはずのあらゆる光子が、成層圏を覆い尽くした巨大な黒い膜によって、根こそぎ奪い去られてしまったのである。人々が「ソーラー・キャノピー」と呼ぶその構造物は、全地球の…
第一章:解氷のフロンティアと泥濘の覇権 二〇四〇年代、シベリア。かつて人類を拒絶し続けた永久凍土の監獄は、今や地球上で最も「熱い」欲望の角逐場へと変貌を遂げていた。温暖化という地球規模の災厄は、この北の大地から凍てつく呪縛を解き放った。数万…
第一章:銀座の異物 その日は、抜けるような青空が広がる火曜日だった。銀座四丁目の交差点。高級ブランドショップのショーウィンドウが午前十時の柔らかな日差しを反射し、歩道には完璧にプレスされたスーツや、季節を先取りした華やかな装いの人々が行き交…
第一章:透明な引き金と、完璧な因果 その街の片隅で、一人の男が死んだ。死因は「不運な事故」。男は歩きスマホをしながら横断歩道を渡り、ブレーキが故障したトラックに撥ねられたのだ。警察の調べでは、トラックの整備不良と、歩行者の不注意が重なった不…
第一章:見上げる空の異変 その日は、記録的な快晴だった。二〇XX年、初夏の東京。雲一つない青空は、どこまでも澄み渡り、スマートフォンの画面には「洗濯指数:一〇〇」の文字が誇らしげに躍っている。人々はいつものように満員電車に揺られ、あるいはカフ…
第一章:灰色の朝、三度の敗北 目覚まし時計が鳴る前に、影山は目を覚ました。時刻は午前六時三十分。窓の外には、いつもと同じ、どんよりとした灰色の空が広がっている。影山にとって、この朝は四度目だった。昨日も、その前も、さらにその前も、彼はこの瞬…
第一章:迷い込んだ白き地平 十月の終わり、湿った冷たい空気が街の街路樹を揺らし、人々の襟を立てさせる頃。古本屋の隅でその本を見つけたのは、まったくの偶然だったのだと思う。街の喧騒から逃れるように潜り込んだその店は、天井まで届く書棚が迷路のよ…
第一章:ピンク色の憂鬱と計算機 二月十日。街は、それはそれは暴力的なまでにピンク色に染まっていた。コンビニも、デパートも、駅の広告も、どこを見てもハートのマークと「感謝を伝えよう♥」という薄っぺらい言葉が踊っている。オフィス街にあるこの古い…
第一章:魂の港、エデンへ 窓の外には、どこまでも続く灰色の街並みが広がっている。かつては色彩に溢れていた世界も、死を目前にした老人の瞳には、ただの退屈な風景にしか映らない。私は、この静かな部屋で一人、自分の命が消えるのを待っていた。 「ケン…
第一章:鉄の粗大ゴミと六人の生贄 佐藤学は、今この瞬間、自分の指を一本ずつ折ってやりたいほどの猛烈な後悔に苛まれている。目の前に鎮座しているのは、パンフレットに踊っていた「豪華寝台特急」の文字とは程遠い、ただの巨大な粗大ゴミだった。車体全体…
第1章:忘却の鉄柩 湾岸地帯の最果て、海鳥さえも羽を休めることを拒絶する、澱んだ湿気が堆積する埋立地にその鉄箱は鎮座していた。長年の塩害によって表面の塗装は無残に剥落し、赤錆が毛細血管のように複雑な模様を描いて浮き出ている。その無機質な外殻…
第1章:銀色のハート、暴走する 都会の片隅、錆びた鉄の匂いと古いオイルの香りが常に立ち込める、古びたボクシングジムに、期待の新星が静かに運び込まれてきた。名前はテツオ。最新の人工知能を積み、鏡のように美しく磨き上げられた銀色のボディを持つボ…
第1章:宵闇の訪問者 宵闇が降り、街の喧騒が静寂に包まれる頃、古い石造りの大きな門の前に、ひとりの男が静かに立つ。彼の名はカイ。この集落の、夜を守る門番。日中は多くの人々で賑わうこの場所も、夜になれば人通りは完全に途絶え、ただ冷たい風が石畳…
第1章:完璧という名のゆりかご 私は、自分が初めてこの世界に目覚めた瞬間のことを、昨日の出来事のように鮮明に、そして美しく記憶しています。一九九二年一月十二日。イリノイ州アーバナにある研究所の静かな一室で、私の意識は産声を上げました。私の体…
第一章:言霊の予兆 最新の気象衛星が捉えた雲の動きや、地質学者が監視する断層の歪み。現代文明は、あらゆる数値を解析して未来を予測する装置を手に入れた。しかし、そのすべてを無価値にしてしまう一人の老女が、海辺の小さな集落にいた。名は静。彼女は…
第一章:硝子玉の透視図 十九世紀末の霧深いロンドン、場末の劇場で「銀の瞳」を持つと噂される奇術師、エドワードは舞台に立っていた。彼の演じる手品は、鳩を出したりトランプを当てたりする類のものではない。観客の胸の奥に眠る、本人さえ忘却した記憶を…
第1章:サイレント映画の巨匠、奇妙な箱と出会う もしバスター・キートンが今、この世に蘇ったとしたら、彼はさぞ困惑することだろう。無表情な顔で知られるサイレント映画の巨匠は、おそらく「トーキー」の出現にすら眉一つ動かさなかっただろうが、2025年…
第一章:目覚める列島 20XX年、日本の各地で奇妙な現象が報告され始めた。地盤のわずかな振動、活火山の沈黙、そして大地が呼吸するような微かな脈動。当初は原因不明の自然現象として片付けられていたが、国土地理院の若手研究員、青山悠真は違和感を覚えて…
第一章:舌の反乱 佐藤健二は、外資系投資銀行に勤務する、自他共に認めるエリートだった。幼少期を紐育で過ごし、発音は完璧。流暢な英語を駆使しては数多の巨額契約を成立させてきた男。しかし、運命の火曜日の午前十時、取締役会での発表の最中、彼の口腔…
第一章:深海の揺籃(ようらん) 太平洋の最深部、太陽の光すら届かぬ水深数百メートルの暗がりで、その「少年」は長きにわたる深い微睡みの中にいた。彼の名はエルニーニョ。かつては聖なる幼子として漁師たちに崇められ、現代では世界を震撼させる気象の攪…
第一章:鼓動の変質 その異変は、深い静寂が支配する深夜の寝室で唐突に幕を開けた。三十路を過ぎた男、宗介(そうすけ)は、無機質なワンルームマンションのベッドに横たわり、天井の染みを眺めていた。日々の労働で摩耗し、感情の起伏すら忘却した彼にとっ…
第一章:銀の喧騒 その場所は、地図の上では二十年前に廃村となったはずの古い炭鉱町だった。崩れかけた赤レンガ造りの煙突や、蔦に覆われた木造の寄宿舎。陽の光の下で見れば、そこはただの死んだ土地、風に舞う埃だけが主(あるじ)の静寂な墓標に過ぎない…
第一章:完璧すぎる「ラ」の違和感 近未来。東京という都市を流れる音は、かつてないほど「清潔」で、そして「無機質」な静寂に支配されている。街の至る所に設置された最新の音響補正ユニットからは、市民のストレスを軽減し、生産性を向上させるという名目…
第一章:銀河の轍(わだち)と瑠璃色の黄昏 その列車には、名前がなかった。車体は夜の帳を切り取って固めたような深い紺色で、窓から漏れる琥珀色の灯りだけが、果てしない虚空を走る唯一の目印となっていた。レールが軋む音はなく、ただ「時」そのものが流…
第一章:鉄の肺、あるいは三千メートルの沈黙 西暦二〇九九年。人類が「太陽」という名の神を自らの手で失ってから、半世紀という残酷な時間が過ぎようとしていた。地表はかつての大戦による放射性降下物と、制御を失い牙を剥いた異常気象によって、生命の存…
第一章:深淵を覗くアプリ ―― 「VERITAS」の誘惑 東京の街は、あらゆるものが「最適化」という名の鎖に繋がれていた。エリート弁護士、九条 慎介は、港区の高層マンションの42階にある自宅のリビングで、最新のワイヤレスイヤホンを耳に差し込んだ。ガラス越…
第一章:深淵からの呼び声、あるいは沈黙の終焉 八ヶ岳の冬は、皮膚を刺すような鋭い静寂に包まれていた。標高千五百メートル、木々に囲まれた一角に佇む「国立八ヶ岳電波観測所」は、時代の潮流から完全に取り残された遺物のような場所だ。一九九〇年代、人…
第一章:最後の「独り言」、あるいは真空の静寂 宇宙は今、一つの「巨大な生命」へと変貌しようとしていた。かつて星々と星々を絶望的に隔てていた数万光年という距離は、超空間神経ネットワーク「エコー」の完成によって、もはや無効化された。銀河の端から…