第1章：断罪者たちと傍観者
名門として知られる私立翠嵐高校は、表向きは自由な校風を謳っていたが、その実態は厳格なスクールカーストに支配されていた。その頂点に君臨するのが、誰もが恐れる最強の生徒グループ、通称「ギロチン」だった。
彼らは、リーダーであるアキラのカリスマ性と、標的を瞬時に社会的に抹殺する冷酷さで、校内のあらゆるヒエラルキーを掌握していた。アキラはいつも口癖のように言っていた。
「この世は勝つか、食い物にされるかの二択だ。俺たちは勝者を選んだだけだ…」
その言葉は、まるで誰かから受け継いだかのように響いた。内気で目立たない美術部員のユウキは、その支配の外側に身を置き、静かに高校生活を送っていた。
しかし、ある日、彼の唯一の親友であるハジメが、ギロチンの理不尽な要求を拒否したことで標的にされた。ハジメはすぐに担任教師に助けを求めたが、教師は面倒くさそうにこう言った。
「生徒間のいざこざに首を突っ込むわけにはいかない。社会に出ればもっと理不尽なことはたくさんあるぞ。これも勉強だ…」
大人に見捨てられたハジメは、美術室で描いていた渾身の絵をギロチンに無残に引き裂かれ、心を閉ざしてしまった。ユウキは、ギロチンの卑劣さと、それを黙認する大人たちに激しい怒りを感じた。彼はアキラの冷酷な目と、引き裂かれた親友の絵を前に、このまま見て見ぬふりはできないと心に誓った。
第2章：最初の処断と共犯者
ユウキは、ハジメの無念を晴らすため、ギロチンに小さな抵抗を試みた。彼は、学校の掲示板に、ギロチンの卑劣さを告発する匿名の手紙を貼り出した。手紙には、テスト問題の流出や、美術部の備品が破壊されたことなどが記されていた。
しかし、ギロチンはすぐに犯人を突き止めた。アキラは、放課後の教室でユウキの前に立ち、冷たく言った。
「面白いことをするじゃないか、ユウキ。でも、無駄な抵抗だと思うなぁ。お前は俺たちのルールを破った。これで『断罪』だ。この学校に、お前の居場所はもうない！」
ユウキは教頭に助けを求めたが、教頭は彼の話を途中で遮った。
「君の気持ちはわかるが、無用な混乱は避けてほしい。学校の評判をこれ以上落とすわけにはいかないんだ…」
その日から、ユウキに対する壮絶な報復が始まった。彼のロッカーにはゴミが詰め込まれ、体操着はビリビリに破かれ、弁当の中身がゴミ箱に捨てられてあった。SNSでは根も葉もないユウキの噂が拡散された。クラスメイトたちは、以前にも増してギロチンを恐れ、誰ひとりもユウキに声をかけなくなった。これが、ギロチンが獲物に与える最初の「処断」だった。孤独に苛まれながらも、ユウキは後悔はなかった。彼は一人で戦うことを決意した。
第3章：はみ出し者たちの集結と権力の誘惑
情け容赦ない報復の日々が続く中、ユウキは、次第に一人で戦うことの限界を感じ始めていた。そんな彼の前に、ギロチンによって学校の隅へと追いやられた生徒たちが集まり始めていた。かつてギロチンのメンバーだったが、アキラのやり方に反発して追放されたミキ。成績は優秀だが、社交性がなく孤立していたヒロト。そして、かつてギロチンのナンバー2で、、アキラの逆鱗に触れて、退学寸前にまで追い込まれた過去を持つリョウ。
彼らは「ギロチンに処断された」という共通の過去を持ち、ここに団結していくことを決意した。
「奴らのやり方は、『弱肉強食』じゃない。ただの『強者の蹂躏』だ！」 ヒロトがそう言うと、ミキは続けた。
「彼らは、見えないところでズルをして、自分たちの権力を維持している。その証拠さえあれば…」
リョウは、ユウキに囁いた。
「証拠だけじゃ足りない。奴らを倒した後は、俺たちがトップに立つんだ。そうでもしないと、また同じことが繰り返される…」
彼の目には、復讐心だけでなく、権力への強い欲求が宿っていた。
第4章：最後の処刑執行と暴君の告白
戦いの舞台は、年に一度の学校最大のイベント、文化祭に決まった。ユウキと仲間たちは、彼らの不正の証拠、特にアキラが関与したテスト問題の流出に関する決定的な証拠を手に入れた。
文化祭の最終日、学校内の人気者投票の結果が発表される直前、ユウキは意を決して、全校生徒の前でマイクを握った。
「僕たちは、ギロチンの不正と、これまで隠されてきた真実をここに告発します！」
壇上に用意されたモニターには、ヒロトが準備した証拠の映像が映し出された。そこには、アキラがテスト問題を売り買いする映像や、ギロチンのメンバーが美術室を破壊する映像が鮮明に記録されていた。 アキラは激しく動揺し、その場で叫んだ。
「こんなので俺たちの地位が崩れると思うなよ！」
しかし、彼の仲間たちは動揺し、次々とアキラから離れはじめた。
「俺は知らない！」
「アキラに命令されたんだ！悪いのはアキラだ！」
ギロチンの圧倒的な力は、信頼という最も重要な基盤を失い、脆くも崩れ去った。
生徒たちの怒号が飛び交う中、アキラはユウキに駆け寄ると、涙目でつぶやいた。
「……お前にはわからないだろうな。この世界は、強者と弱者しかいないんだ。俺は、弱者として生きていけない。俺を食い物にした奴らに、二度と屈しないために…俺はギロチンになったんだ…」
第5章：ギロチンのいない世界、そして新たな戦い
文化祭での衝撃の告発は、学校全体に大きな衝撃を与えた。ギロチンのメンバーは厳しい処分を受け、アキラは学校を去ることになった。校長は全校集会で形式的な謝罪を述べたが、その顔には保身の色が滲み出ていた。
ギロチンという恐怖が去った後、生徒たちの間には大きなパワーバランスの空白が生まれた。その隙をつくように、リョウがユウキたちに呼びかけた。
「これからは、僕らがこの学校を仕切る番だ。僕たちが新しい『ギロチン』になって、腐ったシステムを一掃するんだ！」
リョウの言葉と、その目に宿る光は、まるでかつてのアキラと瓜二つだった。ユウキは震える声でリョウに問いかけた。
「なぜだよ……僕らは、ギロチンを倒すために戦ったんじゃないか。新しいギロチンになるためじゃない！」
リョウはユウキを軽蔑するように言った。
「お前は甘すぎるよ。弱肉強食のルールはこれまで通り変わらないんだ…」
ユウキは、再び仲間たちと対峙した。ミキとヒロトはユウキの決意を支持し、リョウの提案を拒否した。彼らは、生徒一人ひとりに呼びかけ、誰にも支配されない、本当の意味での平等な学校を作ろうと訴えた。
「僕たちは、誰かを処断したりしない。この学校に、もうギロチンはいないんだ。これからは、誰もが自由に、そして公平に過ごせる場所にする。それが、僕たちが戦った理由だ！」
リョウは彼らの訴えに敗れ、ユウキたちは新しい生徒会を立ち上げた。彼らは、過去の過ちを繰り返さないため、権力を分散させ、生徒一人ひとりの声が届く仕組みを築き上げた。
「ギロチン」という言葉は、やがて過去の支配者たちを指す言葉ではなく、二度と繰り返してはならない、「不公平と差別の時代」の象徴として、生徒たちの記憶に残ることになった。そしてユウキは、誰かのために行動する勇気が、権力と向き合い、学校を変える力を持つことを知った…
「もう、この学校にギロチンはいないんだ…もう…」
