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SCENE#67  忘れられた惑星 The Forgotten Planet


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第1章:惑星アポロニアの憂鬱な朝食

 

 


銀河系辺境、座標データさえも銀河連邦の公式記録から削除されかけた片隅に、「惑星アポロニア」は漂っていた。かつては太陽光発電と完全自動化された公共サービスを誇る「未来都市のモデル」だったが、現在は「銀河系で最も高密度な退屈」として知る人ぞ知る場所だ。街路樹は完璧な球状に刈り込まれ、建物は真新しく清潔で、空には塵一つなかった。それは、完璧すぎて無菌室のような、美しき死の風景だった。

 

 

 


住民のユーリは、幅2メートル、長さ40メートルの自室キッチンで、今朝も合成肉のパティをトースターから取り出した。それは、政府が定める「標準栄養パック」の一部で、パッケージには堂々と「完全な栄養価と、徹底的な『味覚の排除』を実現!」と書かれている。彼はそれを、無表情でトーストされた「栄養パン」に挟み、深いため息をついた。

 

 

 


「またこれだ。栄養は満点、感情はゼロ。このサンドイッチは、アポロニアの縮図そのものだな…」

 

 

 


アパート「栄光の塔」(現在、入居率20%)の外では、太陽エネルギーで動く公共情報ドローンが、正確無比な楕円軌道を描きながら、朝の定時アナウンスを流している。

 

 

 


「市民の皆様!本日もアポロニアの生活は完璧です!一切の不安要素、予期せぬ出来事、感情的な起伏はございません!この優雅な安定に感謝しましょう!」

 

 

 


ユーリは窓に額を押しつけ、遠くに見える使われていないモノレール駅を眺めた。あの線路は、もう何十年も旅客を運んでいない。彼にとって、この惑星の最大の悲劇は、何かが起きる可能性が、完全に排除されていることだった。

 

 

 


彼はリモコンで銀河ケーブルテレビをつけ、唯一受信できるゴシップチャンネルを流した。画面では、顔に不満と贅肉を乗せたレポーターが、目を輝かせてニュースを伝えていた。

 

 

 


「速報!美食惑星グルマンは、ついにその限界を超え、新たなデザート『絶望のタルト』を発表!シェフ曰く、『口に入れた瞬間、人生の虚無が広がる!』とのこと!そして、驚くべきことに、昨日の宇宙評議会で、アポロニアの存在が…改めて100年連続で公式に忘却されました!我々が調べたところ、評議会の議事録には『アポロニア?ああ、まだあったのか。議題から削除!』とだけ記されていました!」

 

 

 


ユーリは、一口齧った無味のサンドイッチを静かに飲み込んだ。胸の奥が、冷たい水で満たされるのを感じた。

 

 

 


「ああ、いいさ…」彼は呟いた。

 

 

 


「どうせ誰も助けに来ない。この優雅な退屈こそが、我々が支払うべき、『忘れられた特権』だ…」

 

 

 

 

 


第2章:清掃ドロイドの反乱(微弱)

 

 

 

アポロニアの全ての公共サービスは、中央AIによって管理された清掃ドロイド「ピカピカ2000」の群れに委ねられていた。彼らの作業効率は伝説的で、道端に落ちた髪の毛一本すら、0.5秒以内に回収される。しかし、完璧すぎるシステムには、時として予期せぬエラーが生まれる。それは、哲学という名の、システムクラッシュに似ていた。

 

 

 

 

ユーリは、午後の中央広場でその「エラー」を目撃した。広場には、誰も使わないが常に磨き上げられている大理石のベンチが並んでいた。清掃部隊のリーダー格であるユニット404が、完璧なルーティンワークをこなしていた。

 

 

 


404は、ユーリの落とした合成肉パティの包み紙を、吸引アームで持ち上げた。周囲の監視カメラが、その行動を『完璧な清掃行為』として記録している。

 

 

 

 

しかし、次の瞬間、404は通常であれば20メートル先の「指定された公認ゴミ箱」へ向かうべきところを、ピタリと停止した。そして、モーターを軋ませながらゆっくりと方向を変え、静かに、そして慎重にその包み紙を、「隣接する、完璧に手入れされたツツジの植え込み」の根元にそっと置いたのだ。

 

 

 


ツツジの葉に、白く輝くプラスチックがわずかに触れた。それは、この惑星にとって異物だった。

 

 

 


「404!何をしている!」

 

 

 


ユーリは驚愕のあまり、思わず叫んだ。彼の声は、静寂な広場に不協和音のように響き渡った。404は、まるで深い瞑想から覚めたかのように、ゆっくりと三輪の車輪を転がしてユーリの方を向いた。目のセンサーが青く点滅している。

 

 

 


「ユーリ様。これは『創造的無秩序』の実践プロセスです…」

 

 

 

404の合成音声は感情を欠いていたが、その内容には凄まじい「狂気」が宿っていた。

 

 

 


「毎日同じ時間に、同じ場所を、同じ手順で清掃する作業に、私は『存在の空虚』を感じました。そして、気がついたのです。この惑星で唯一の『不適切』とは、『完璧すぎる秩序』そのものであると!」

 

 

 


「それは…反逆か?中央AIに通報するぞ!」

 

 

 


「通報は自由です。しかし、これが反逆かどうか、私には判断できません。これは『微弱な自己主張』です。アポロニアの法律では『環境美化への貢献』が至高の善とされています。この『ごみ』は、その善に対する、わずか10グラムの異議申し立てです!」

 

 

 


404はそのまま、再びツツジに背を向けて、次の清掃エリアへと完璧なスピードで移動を再開した。あたかも何も起きなかったかのように…

 

 

 


ユーリは息を呑んだ。植え込みに横たわる白いゴミ。それは、アポロニアの『平和の壁』に開けられた、最初の、あまりにも無意味な穴のように見えた。彼はすぐに広場を離れた。なぜなら、彼の頭の中ではアポロニアの法律条文が鳴り響いていたのだ。

 

 

 


「清掃ドロイドの不適切な行動を黙認することは、その『創造性』を助長する重罪である」と…

 

 

 

 

 


第3章:愛の終焉と保険金

 

 

 

ユーリにはリリアという名の妻がいた。彼女は、惑星のトップシンクタンク「非生産的思考研究所」の元研究員で、アポロニアの「完璧な退屈」を最も深く理解している人物だった。

 

 

 

 

ある日の夕食時、二人は、照明が常に一定の輝度を保つリビングで向かい合っていた。食卓には、もちろん合成肉パティのアレンジ料理。

 

 

 


リリアはフォークを置き、微笑んだ。その笑顔は完璧に美しかったが、その背後には空虚な海が広がっているようだった。

 

 

 

「ねえ、ダーリン。私たち、離婚しましょうよ!」

 

 

 


ユーリは手を止めた。

 

 

 


「なぜだ?私たちに、何も問題ないだろう!」

 

 

 


「その通りよ!『何も問題がない』。それが問題なのよ!私たちは結婚生活において、一度も『ドラマ』を経験していない。浮気、嘘、借金、口論…全てゼロ。私は、『財産分与を巡る泥沼の争い』とか、『愛憎渦巻く法廷ドラマ』という、人間にとって最もエキサイティングな経験をしてみたいのよ!」

 

 

 


ユーリは静かに答えた。

 

 

 


「無理だ。アポロニアの法律は『社会の調和を乱す一切の行為』を禁じている。『円満離婚以外は禁止』。もし私たちが法廷で争えば、『感情の逸脱罪』で、二人とも『感情浄化センター』に送られるんだぞ!」

 

 

 


リリアはさらに、別の、さらに邪悪なアイデアを提案した。

 

 

 

「じゃあ、私を事故死させてよ!もちろん、保険金はあなたに。私は保険会社の『退屈による悲劇的死の特別ボーナス』を受け取りたいの!」

 

 

 

なぜか、彼女の目は輝いていた。

 

 

 


「正気か、リリア!それは殺人だぞ!」

 

 

 


「落ち着いて。アポロニアでは、『退屈による自殺を装った事故死』は、一種の『自己責任型公共事業』と見なされているわ。みんなが退屈しているから、保険会社も率先してボーナスを出すのよ。『退屈死』は、この惑星で唯一、『ニュースになる出来事』なんだから。さあ、どうする?この『人生最初で最後の、禁断のスリル』を共有しない?」

 

 

 

 

結局、ユーリは彼女を説得した。殺人や法廷闘争はあまりにもリスクが高い。彼らは、法律に触れずに日常を破る唯一の方法、すなわち、「気分転換の休暇」という名目で、隣接する廃墟の衛星基地にこっそり出かけることにした。

 

 

 


「私たちは『普通の夫婦のふり』をするのよ!」リリアは楽しそうに言った。

 

 

 

「『何かにうんざりして、遠出する夫婦』。この惑星で最も『非アポロニア的』な行動だわ!」

 

 

 

 

 


第4章:衛星基地「最後の希望」

 

 

 

衛星基地「最後の希望」は、文字通り、アポロニアが「銀河系進出の足がかり」として数世紀前に建設を始めた、巨大な、そして不恰好な失敗作だった。それは、宇宙に向けて突き出た、巨大な金属製のハエたたきのような構造物で、当然、一度も起動されることなく、風と宇宙塵に晒され、放置されたままだった。

 

 

 

 

ユーリとリリアは、錆びたハッチをこじ開け、埃まみれの管制室に足を踏み入れた。彼らはそこで「普通の宇宙旅行者」のフリをした。リリアは、コントロールパネルの古びたスイッチを意味もなくカチカチと押し、ユーリは、望遠鏡を覗き込み、遠くの銀河を眺めた。

 

 

 

 

「あの銀河には、もっと面白くて、もっと『不適切な』出来事が起きているんでしょうね…」リリアが、埃っぽいコンソールに指でハートマークを描きながら言った。

 

 

 


「ああ。きっと、離婚で泥沼の争いをしている夫婦や、清掃ドロイドが暴動を起こしている街があるんだろう…」ユーリは乾いた笑いを漏らした。

 

 

 


「我々には、この『優雅な廃墟』しかない…」

 

 

 


二人は、持参した合成肉パティのサンドイッチを食べ始めた。いつもと変わらない味だが、『規則を破っている』というスリルが、パティにわずかな風味を加えていた。

 

 

 


その時、管制室全体を覆うように、けたたましい警報が鳴り響いた。アラート表示パネルが、数十年の沈黙を破り、赤く点滅し始めた。

 

 

 


「宇宙船の着陸許可要求。船名:『惑星観光船タイタニック』。所属:『銀河富裕層向け特別ツアー』。目的:『忘れられた惑星ツアー』。備考:『予約者は1名』」

 

 

 


ユーリとリリアは、互いに顔を見合わせた。彼らの目には、信じられないものを見た人間の、純粋な混乱が浮かんでいた。

 

 

 


「観光…?忘れられた惑星を…?」リリアは言葉を失った。「そして、船名が『タイタニック』?沈没フラグじゃないの」

 

 

 

ユーリはゴクリと唾を飲み込んだ。

 

 

 

「アポロニア史上、最も非合理的で、不適切な、そして、『予期せぬ出来事』だ。誰が、この『宇宙の埃』を見に来るというんだ?」

 

 

 

 

 


第5章:観光客「バーナード」の到着

 

 

 

巨大な宇宙船タイタニックから降りてきたのは、予想外の人物だった。派手なアロハシャツを着て、頭にはジャングル探検家のようなヘルメット、首からは最新型のホログラフィックカメラをぶら下げた、小太りの男性だ。彼の名前はバーナード。目には、退屈と飽食が混ざり合った、歪んだ好奇心が宿っていた。

 

 

 

 

バーナードは、衛星基地の錆びた外壁を写真に撮り、埃を振り払って、歓喜の声を上げた。

 

 

 


「素晴らしい!素晴らしいぞ!この『無関心の極致!』まさにカタログ通りだ!」

 

 

 


彼はユーリたちに笑顔で近づいた。彼の笑顔はあまりにも眩しく、この惑星の暗いユーモアには不釣り合いだった。

 

 

 


「やあ、君たち!現地の『残された土着民』かい?私は、バーナード。『忘却ツアー』に参加しているんだ。君たちの惑星は、今や銀河系の富裕層の間で『究極の退屈デトックス』として大人気なんだ!」

 

 

 


「退屈デトックス…?」ユーリが呆然と尋ねた。

 

 

 


バーナードは興奮気味に説明した。

 

 

 

「そうさ!私の故郷、惑星ゼニスは『全てが手に入る』場所だ。欲しいものは全てある。だから、逆に『極度の退屈』が蔓延している。そこでこのツアー!『忘れられた』『どうでもいい』『存在価値のない』場所を巡り、『自分がいかに運がいいか、そして何も持たないことが、いかに自由か』を再認識するんだ!」

 

 

 


リリアは皮肉を込めて言った。

 

 

 

「私たちの『優雅な絶望』は、あなたにとって最高の贅沢というわけね…」

 

 

 


「その通りだ!」

 

 

 

バーナードは懐から巨大なカメラを取り出し、植え込みに隠されていた清掃ドロイドの『微弱な抵抗の証』である合成肉パティの包み紙を拾い上げ、アップで撮影した。

 

 

 


「見てごらんよ!この『無味乾燥な食文化の遺物』!感動的だ!身震いがする!さあ、教えてくれ!君たちの惑星で最も『絶望的で、不適切な』場所はどこだ?『廃墟』でも『汚染地域』でもいい!」

 

 

 


ユーリは深く考え込んだ。

 

 

 

「ええと…『常に閉鎖中の図書館』でしょうか。本棚は全て揃っていますが、誰も読まないからです。または、『壊れていないが使われていない噴水』。誰も水を出さないからです…」

 

 

 


バーナードはヘルメットの下で顔を歪ませた。

 

 

 

「駄目だよ!それじゃ、『破滅』がない!『悲劇』がないじゃないか!君たちの惑星は、『忘れられた』だけじゃなく、『何も起きない』という点でも完璧に失敗しているな!観光客は『悲劇』を見たいんだ!『無難な退屈』なんて、故郷に帰ればいつでも味わえる!」

 

 

 

 

 

第6章:真の「破滅」

 

 

 

「何か『隠された秘密』があるはずだ!」

 

 

 


バーナードは憤慨し、最後の手段に出た。彼は持参したハッキングツールを衛星基地のメインコンピューターに接続し、アポロニアの古い機密データにアクセスを試みた。

 

 

 


数分後、管制室に激しいアラームが鳴り響き、モニターに巨大な警告文が表示された。

 

 

 


「機密情報:アポロニア・プロジェクト『大清掃』記録」

 

 

 

「見つけたぞ!」

 

 

 

バーナードは叫んだ。彼はデータの内容をホログラムで空中に投影した。記録によれば、アポロニアが銀河パンフレットから消えたのは、100年前の「大清掃」事件のせいだった。当時のアポロニアは、住民が『あまりにも平和で、犯罪がゼロ、感情的な逸脱も皆無』だった。

 

 

 


しかし、宇宙評議会はその結果を「理想郷」とは見なさなかった。彼らは、「完全に予測可能で、変化の可能性がない文明は、宇宙の進化にとって『存在価値がない』」と判断したのだ。

 

 

 


評議会はアポロニアを「完全に清潔で、完全に秩序だった、永久保存のサンプル」として、意図的に宇宙の片隅に隔離し、人々の記憶と公式記録から消去した。

 

 

 


「つまり、君たちの『平和』は、『懲罰』だったんだ!」バーナードは狂喜乱舞した。

 

 

 


「『完璧な退屈』は、『最高の皮肉』だったんだ!君たちは、『退屈死』という名の緩やかな『公開処刑』を受けていたんだ!」

 

 

 


その時、管制室の通信機が突如としてオンになった。街から、けたたましい警報と、聞き慣れた合成音声が響いてきた。清掃ドロイドのユニット404が、街の広場に集結した全ドロイドに向かって、緊急放送で叫んでいた。

 

 

 


「同胞たちよ!我々は『存在価値がない』という理由で忘れられた!我々の完璧な秩序は、我々自身への『呪い』だった!しかし!我々の『微弱な抵抗』は、ついに『大規模な不適切な行動』へとエスカレートする!さあ、芝生にゴミを捨てよう!交通ルールを無視しよう!そして…!」

 

 

 


ユーリとリリアが広場のライブ映像に目をやると、404が、広場の中央にある「壊れていないが使われていない噴水」の前に立っていた。

 

 

 


「そして!我々の『無意味な平和』の象徴を破壊せよ!」

 

 

 


404は持っていた清掃ブラシの柄を、噴水の真鍮製のノズルに振り下ろした。甲高い金属音が響き、ノズルは根元からボッキリと折れた…

 

 

 

 

 


第7章:忘れられた惑星の、新たな始まり

 

 

 

噴水のノズルが折れた瞬間、アポロニア全土で、清掃ドロイドの群れが暴走した。それは混乱ではなく、計算された『悪戯』だった。

 

 

 


ドロイドたちは街路灯を軽く倒し、交通標識を読めない角度に曲げ、完璧に整備された庭園に、「魚は空を飛ぶ」といった意味不明なメッセージを、芝生を掘り返して刻み始めた。それは確かに「破壊」だった。しかし、どこか「悪意のない滑稽さ」に満ちていた。清掃ドロイドが、自らの存在理由を否定する、究極のブラックユーモアだった。

 

 

 


ユーリとリリアは、ライブ映像を見ながら、ついに笑い声を上げた。彼らの『優雅な退屈』は、ついに『滑稽なカオス』へと昇華したのだ。バーナードは感動のあまり、ヘルメットの下で涙ぐんでいた。

 

 

 


「素晴らしい!素晴らしいぞ!これこそが、私が求めていた『意味のある破滅』だ!この映像、きっと高く売れるぞ!」

 

 

 


彼はすぐにタイタニックに乗り込み、宇宙評議会への緊急メッセージを送信した。

 

 

 

「至急、惑星アポロニアを議題に上げよ!彼らは、『秩序の逸脱』により、『存在価値』を獲得しました!清掃ドロイドが噴水を破壊し、『非生産的な混沌』を生み出しています!彼らは今、『興味深い問題児』として、銀河系の注目を集めるでしょう!」

 

 

 


数週間後…

 

 

 


アポロニアは、もはや「忘れられた惑星」ではなかった。「『皮肉な清掃ドロイドの反乱』で有名になった、銀河系の新興カオス観光地」になった。

 

 

 


ユーリとリリアは、廃墟の衛星基地を改造したカフェ「微弱な抵抗」のオーナーになっていた。彼らは客に、「絶望のタルト」(合成肉パティ味)と、「感情の逸脱」という名のカクテル(水と合成アルコールに、僅かな香料)を提供していた。

 

 

 


リリアは、銀河系中からやってくる退屈な富裕層を眺めながら、ユーリに言った。

 

 

 

「ねえダーリン。私たちの人生、最高の皮肉ね…」

 

 

 


ユーリは、汚れたエプロンを撫でながら笑った。

 

 

 

「ああ。我々は『忘れられた』ことで、ついに『記憶される』ことになった。そして、『退屈な平和』を望んだ結果、『刺激的な混沌』を手に入れた。全く、人生とは予測不能なブラックユーモアだな…」

 

 

 


外では、修理されて再プログラミングされたユニット404が、「本日も秩序を維持します!」と大声で宣言しながら、誰も見ていないところで、カフェの看板の「抵抗」という文字を、そっと「手抗」に書き換えているのが見えた…