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SCENE#80  Since1973〜ぼくたちの青春 Since1973 The Days of Our Youth


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第1章 新しい風、ベルボトムとフォークソング

 

 

 

昭和48年、1973年の春。僕、ケンジは真新しい学生服に身を包み、桜並木が続く坂道を自転車で駆け上がっていた。ペダルを漕ぐ足元には、当時憧れの的だったリーバイスの501がなびいている。通学路の途中にある小さなレコード店からは、カーペンターズの「Yesterday Once More」が流れてきて、どこかセンチメンタルな気分にさせられる。県立緑ヶ丘高校の真新しい校舎を見上げると、胸の奥がざわついた。

 

 

 

「さあ、どんな毎日が始まるんだろう? きっと、今までとは違う何かが始まるに違いない…」

 

 

 

自由と希望に満ちた「新しい時代」が、僕たちを待っている気がしたんだ。

 

 

 

あれは入学式の日、教室で隣の席になったユキと目が合った。彼女は当時流行し始めた短い前髪のシャギーカットで、大きな瞳が印象的だった。タイトな制服を着崩しているわけじゃないのに、どこか『anan』や『non-no』のモデルみたいに洗練されていて、「新しい女」の雰囲気があって、僕はすぐに胸が締め付けられるような感覚を覚えた。思わず「よろしく!」と声をかけたら、彼女はにかんで「こちらこそ、よろしくね!」と返してくれた。その声は、すごく透き通っていた。

 

 

 

 

ある放課後、クラスメイトのマサオとヨシオに誘われ、僕たちは連れ立って学校近くの喫茶店「レモングラス」へ向かった。店内には、吉田拓郎の「旅の宿」が静かに流れている。「ああ、この曲、いいよなぁ。なんか、旅に出たくなるよな、東北とか北海道とかさ!」とマサオがクリームソーダを飲みながら呟いた。

 

 

 

 

マサオは野球部志望で、「甲子園目指すぜ! スパイクも新しいのが欲しいんだよな、ミズノのやつ!」と意気込んでいる。ヨシオは学級委員になることだけを考えているような真面目なやつで、「まずは勉強だろ。中間テストまであと何日か知ってるか? お前ら、もっと真面目に考えろよ!」といつも言っていた。彼らはどちらかというと、まだテレビで「巨人の星」を夢中で見ていた頃の僕たちの名残を感じさせる。

 

 

 

 

「ケンジは何部に入るんだ? フォークソングでもやるのか? ギターとか似合いそうだけどな、拓郎みたいにさ!」マサオが尋ねた。当時、フォークギターを抱えて歌うのがちょっとしたブームだった。

 

 

 

 

僕は少し迷った。

 

 

 

「うーん、まだ決めてないんだ。でも、何か夢中になれることを見つけたいな。カメラとか、面白そうかなって思ってるんだ。親父の古いカメラを引っ張り出してきてさ。モノクロの世界を覗いてみたいんだ!」

 

 

 

その時、ベルボトムのジーンズに花柄のブラウスを着たユキが、友達のミドリと連れだってレモングラスに入ってきた。

 

 

 

「あっ、ケンジくんたちも来てたんだ! ここのクリームソーダ美味しいよね。私、ここのプリンアラモードも好きなの!」

 

 

 

彼女は僕たちのテーブルに気づき、軽く会釈をした。その仕草に、僕はまた胸がときめいた。遠くでサイレンの音が聞こえる。ニュースではベトナム戦争の停戦合意やウォーターゲート事件が報じられ、世の中は大きく揺れ動いていた。オイルショックの足音が忍び寄っているなんて、僕たちはまだ知る由もなかったけれど、1973年。僕たちの青春が、今まさに始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

第2章 動き出す時間、キャンパスとレンズ、そして日々の労働

 

 

 

新学期が始まって少し、僕たちの学校生活は慌ただしくも充実したものになっていった。当時、学生運動の熱は冷めつつあったけれど、大学のキャンパスではまだデモのシュプレヒコールが響き、世の中は少しずつ変わり始めていた。そんな時代の中、僕たちの高校生活も、少しずつ「大人」の色を帯びていった。

 

 

 

 

僕は結局、写真部に入部した。

 

 

 

 

「いいところに目をつけたな、ケンジ! 古いけど、このミノルタのSR-1は名機だぜ。光を捉えるってのは、世の中を見るってことだからな。写し取るのは、ただの風景じゃない、感情なんだ!」と部長のタカシ先輩が僕に古いミノルタのカメラを貸してくれた。彼はいつもどこか哲学的なことを言う人だった。僕は校舎の片隅や放課後のグラウンドをカメラを持って歩き回るのが楽しかった。

 

 

 

 

当時のフィルムはまだ高価で、一枚一枚を大切に、光と影のコントラストを意識しながらシャッターを切った。ファインダー越しに見る世界は、いつもと少し違って見える。

 

 

 

 

「まるで、自分の目で新しい発見をしてるみたいだ!」テレビのニュースや雑誌で見る「世の中」の断片を切り取っているような気分だった。

 

 

 

 

ユキは美術部に入部した。

 

 

 

 

「描いてるときが一番落ち着くの。絵の具の匂いも好き。絵筆でキャンバスに色を乗せていく瞬間がたまらない!」と彼女は言っていた。放課後、美術室から彼女の真剣な横顔が見えるたびに、僕はこっそりカメラを向けた。もちろん、シャッターは切らなかったけれど。彼女がキャンバスに向かう姿は、僕の心を惹きつけてやまなかった。彼女の描く絵には、当時の女性誌の挿絵のような、繊細だけど力強い意志を感じた。

 

 

 

 

夏が近づくにつれ、クラスの中での僕たちの関係も少しずつ変化していった。授業のグループ課題でユキと同じ班になったとき、僕は緊張してまともに話すことができなかった。

 

 

 

「あの、これ、どうすればいいかな…」と小さな声で尋ねるのがやっとだ。しかし、ユキは「大丈夫だよ、ケンジくん。一緒に考えようよ!みんなで協力すればきっとうまくいくから。完璧じゃなくていいんだから!」と優しく接してくれた。

 

 

 

 

僕はその頃には放課後、駅前の小さなガソリンスタンドでアルバイトを始めていた。給油作業や洗車は慣れないけれど、時給が当時としては破格の250円。少しでも小遣いを稼いで、新しいレンズやフィルムが欲しかった。「ケンジ、お前も頑張るな!これで念願のVANのトレーナー買えるんじゃないか?」とマサオが冷やかし半分に声をかけてくる。確かに、当時流行していた「VAN」のトレーナーは僕の憧れだった。

 

 

 

 

ある日、学校の帰り道、僕とユキは偶然二人きりになった。沈黙が続く中、ユキがぽつりと口を開いた。

 

 

 

「ケンジくんって、いつもカメラ持ってるんだね。そんなに写真、好きなんだ? なんか、テレビで見る写真週刊誌のカメラマンみたいで、かっこいい!私も昔、お父さんのコニカのカメラで遊んだことあるんだけど、難しくてすぐ諦めちゃった…」

 

 

 

 

「うん、カメラ大好きなんだ。ユキは絵を描くのが好きなんでしょう? 今描いてる絵はどんな感じなの? どんなテーマなの?」僕は精一杯の平静を装って答えた。

 

 

 

 

「うん。描いてる間は、時間を忘れちゃうの。私、いつかロックバンドのジャケットのデザインとか、描いてみたいんだよね。YAZAWAとか、カッコいいじゃない? 彼のライブを絵にできたら最高だなって思うの!」

 

 

 

ユキはふわりと笑った。

 

 

 

 

当時の音楽シーンはまさに過渡期で、フォークからロックへと移り変わるエネルギーに満ちていた。深夜ラジオから流れる洋楽にも僕は夢中だった。その笑顔を見て、僕はもっと彼女のことを知りたい、彼女の目に映る世界を見てみたいと強く思った。僕たちの時間は、ゆっくりと、そして確実に動き出していた。

 

 

 

 

 

第3章 夏の記憶、ビキニとディスコサウンド、そして花火大会

 

 

 

夏休みに入り、僕たちの青春は一層輝きを増した。写真部では、部長のタカシ先輩の指導のもと、フィルムの現像や引き伸ばしを学んだ。

 

 

 

「いいか、ケンジ。写真は光と影の芸術だ。ただ写すだけじゃないんだ。どんな瞬間を切り取るかが大事なんだ。現像ひとつで、写る世界が変わるからな!」

 

 

 

当時の暗室は、薬品の匂いが充満していて、まるで秘密基地のようだった。先輩がこっそりと持ってきたラジオから流す、ザ・ピーナッツや弘田三枝子の古い歌謡曲が、現像液の音に混じって聞こえていた。

 

 

 

 

ユキは美術部で油絵に没頭していた。

 

 

 

「この色、どうかな? ケンジくんのカメラで見る色と、どっちが近いかな? 自然の色を出すのって本当に難しい…」と尋ねてくることもあった。時折、彼女の作品を見せてもらうと、その色彩の豊かさと繊細な筆遣いに僕はいつも感動した。彼女の描く女性像は、当時流行していたミニスカートやパンタロンを着ていて、ファッション雑誌から抜け出してきたようだった。

 

 

 

 

「私、雑誌のファッション、すごく参考にしてるの!」と彼女は言った。

 

 

 

 

夏休みのある日、クラスの有志で海の家に行くことになった。マサオやヨシオはもちろん、「ユキも来るってさ! おい、ケンジ、お前も来いよ! 女子もたくさん来るってよ!」とマサオが興奮気味に教えてくれた。それを聞いて、僕は朝から落ち着かなかった。

 

 

 

 

当時の海岸は、今よりもずっと開放的で、ビキニ姿の女性が当たり前のようにいて、なんだか眩しかった。「ユキのあの水着姿、目に焼き付いちまうな!」とマサオが茶化す。潮風が心地よい海岸で、僕たちは水着姿で波打ち際を駆け回った。マサオは浜辺で野球の真似事をしたり、ヨシオはビーチボールで遊んでいた。

 

 

 

砂浜で休憩していると、ユキが僕の隣に座った。

 

 

 

「ケンジくん、さっき波打ち際でカモメを撮ってたの? この海岸ってなんか、『男はつらいよ』の旅の景色みたい。日本の風景って、独特の美しさがあるなって思うんだ。寅さんみたいに、自由に旅をしてみたくない?ケンジくんは、どこか行きたい場所ある?」

 

 

 


「そうだなあ…北海道とか、行ってみたいかな。大自然をカメラに収めてみたいんだ。あと、海外も見てみたいな、ベトナムのニュースとか見るとさ…」

 

 

 

 

僕は精一杯、言葉の続きを探した。

 

 

 

 

「もちろん、海の風景を撮るのも楽しいんだ。ユキの絵みたいに、一枚の絵になるように撮りたいんだよ。ユキは絵を描いてるとき、どんなことを考えてるの? 何か特別な景色が見えるの?」

 

 

 

 

ユキは持っていた僕のカメラを手に取り、ファインダーを覗いた。

 

 

 

「ケンジくんが、カメラのレンズから覗く景色って、こんな感じなんだ!なんか、違って見えるね。波が、ディスコで踊ってるみたいに、躍動感がある。私もこんな風に、絵で人の心を揺さぶれたらいいのに。絵って、写真と違って自分で世界を作れるから、そこが魅力なの…」

 

 

 

 

当時のディスコブームは始まったばかりだったが、僕たちの世代には新しい刺激として受け入れられ始めていた。僕は意を決して言った。

 

 

 

 

「ユキの絵も、ユキの優しさが出てると思うよ。まるで、キャンパスに流れるメロディーみたい。見る人を優しく包み込むような、そんな絵だと思う!」

 

 

 

夕焼けが水平線を赤く染め始めた頃、遠くから「太陽にほえろ!」のテーマ曲が聞こえるような気がした。

 

 

 

 

「あ、そろそろ帰らないと、おふくろに怒られるな。今夜は『時間ですよ』があるぞ!浅田美代子がかわいいんだよな!」

 

 

 

僕たちは帰り支度を始めた。打ち寄せる波の音と、潮の香りが、僕たちの夏の記憶に深く刻まれていく。

 

 

 

 

 

第4章 すれ違う心、そしてオイルショックの影

 

 

 

二学期が始まり、学校では文化祭の準備が本格的に始まった。当時、各地で環境問題や公害が社会問題になり始め、僕たちの学校でも「限りある資源を大切に!」「省エネルギーを!」といった標語が掲げられるようになった。新聞には「狂乱物価」の文字が踊り、世の中全体がざわついていた。写真部は展示作品の選定に、美術部は共同制作の大きな絵に取り組んでいた。僕もユキも、それぞれの活動に忙しく、なかなかゆっくり話す機会がなかった。

 

 

 

 

 

そんなある日、僕はユキがタカシ先輩と楽しそうに話している姿を目にした。タカシ先輩は優しくて、頼りがいのある人だ。そういえば当時の男たちは、先輩後輩の絆を大切にする風潮があったっけ。

 

 

 

 

ユキが自分の絵のことでタカシ先輩に相談しているのは知っていたけれど、なんだか胸の奥がざわついた。

 

 

 

 

「別に、俺には関係ないことだよな…。ユキは自分の絵のことを相談してるわけだし…」

 

 

 

そんな風に自分に言い聞かせても、モヤモヤは消えない。僕は無意識のうちに、ユキとタカシ先輩を避けるようになっていた。写真部の活動に没頭することで、そのざわつきを打ち消そうとした。ユキも、僕がそっけない態度をとっていることに気づいているのか、以前より話しかけてこなくなった。

 

 

 

 

そして、世の中は急速に変化していた。テレビのニュースでは「オイルショック」という言葉が毎日のように報じられ、トイレットペーパーの買い占め騒動やガソリン価格の高騰が人々の生活を脅かし始めていた。

 

 

 

 

「おい、ガソリンがまた値上がりするらしいぞ! 車乗るの、もう無理かもな!」「うちの親父、車乗るの控えるって言ってた。週末のドライブもなくなっちゃったよ。テレビでは『節約』ってばかり言ってるしな…」とマサオやヨシオも心配そうに話す。

 

 

 

 

「この先、どうなっちゃうんだろうな、日本は…俺たち、ちゃんと就職できるのかな…」と漠然とした不安がよぎった。「この前、テレビで『日本沈没』のドラマ、観ただろ? あれ、本当に現実になったらどうするんだ?」そんな若者らしい不安が、僕の心を支配していた。

 

 

 

 

文化祭当日、僕たちの写真部の展示は盛況だった。

 

 

 

 

「ケンジ、お前の写真、いいじゃん! 特にあの夕焼けの写真、最高だな! プロみたいだ!」「これ、どこで撮ったの? まるで絵みたい!」クラスメートが僕の作品を見て、感想をくれた。しかし、僕はユキの作品展に足を運ぶことができなかった。自分の不器用さに苛立ち、後悔の念が募るばかりだった。

 

 

 

文化祭の終わりに、僕はついにユキに話しかけた。「ユキ、僕…」しかし、言葉が続かない。

 

 

 

ユキは少し寂しそうに微笑んだ。

 

 

 

「ケンジくん、最近元気ないよね。何かあったの? テレビのニュース、見てる? 世の中、大変なことになってるけど、ケンジくんも元気出してよ。何かあったら、私に話してくれてもいいんだよ。私、ケンジくんのこと、心配してるんだから…」

 

 

 

僕はやっぱり何も言えなかった。言葉を見つけようとしたけれど、何も言えなかった。すれ違う二人の心は、ますます遠ざかる一方だった。まるで、昭和の歌謡曲のように、もどかしくて、切なかった。帰り道、電柱に貼られた「トイレットペーパー一人一巻き」の貼り紙が、妙に寂しく見えた。

 

 

 

 

 

第5章 茜色の空の下で、そして新しい時代へ

 

 

 

三学期が終わろうとする頃、僕は放課後の校舎の屋上で一人、空を眺めていた。茜色に染まる空は、僕の心の色を表しているようだった。遠くで、子供たちが「ウルトラマンタロウ」の歌を口ずさんでいる声が聞こえる。

 

 

 

 

「ああ、何もかも、このまま終わっちゃうのかな…僕、このままでいいのかな…」

 

 

 

 

なぜか将来への漠然とした不安が、僕の心を重くしていた。大学に進学すべきか、それともこのまま就職するべきか。親父は「これからは手に職をつける時代だ。安定した会社に入るのが一番だぞ!」と言っていたっけ。自由に生きたい気持ちもあるけれど、現実の厳しさも感じ始めていた。

 

 

 

「ケンジくん!」

 

 

 

後ろから優しい声がした。振り返ると、そこにユキが立っていた。

 

 

 

「ユキ…」

 

 

 

ユキは僕の隣にそっと座った。

 

 

 

 

「ケンジくん、もしかしたらここにいるかなって思って。私、ずっと気になってたんだ!」ユキは言った。

 

 

 

「私、ケンジくんとちゃんと話したいことがあるの。このままじゃ、なんか…嫌だから。私たち、友達だと思ってたのに、ケンジくんがずっと冷たいから、なんか寂しかった…」

 

 

 

 

僕はユキから目をそらした。彼女の真っ直ぐな瞳を見るのが怖かった。ユキは続けた。

 

 

 

「文化祭の時から、ケンジくん、私のこと避けてたよね。私、何かケンジくんを怒らせるようなことしちゃったかなって、ずっと気になってたんだ。なんか、私、ケンジくんの態度に、戸惑ってたの。ちゃんと話してくれなきゃ、わからないよ。私、ケンジくんのこと、誤解したくないもの。誤解したまま、2年生になりたくない。ケンジくんの気持ち、聞かせてほしいの…」

 

 

 

 

僕はたまらず顔を上げた。

 

 

 

 

「違うんだ、ユキ。僕が勝手に勘違いしてただけなんだ。タカシ先輩とユキが話してるの見て、なんか… 変な風に思っちゃったんだ。僕、バカだよね…本当に。ユキのこと、誤解して、勝手に避けちゃって…本当にごめん…」

 

 

 

 

ユキは僕の言葉を遮って、くすっと笑った。

 

 

 

 

「タカシ先輩はね、私の絵のこと、すごく褒めてくれたの。『ユキの絵は、当時の世相を切り取ってるみたいだ』って。美術部で使う絵の具のこととか、新しい技法の相談に乗ってくれてね。ケンジくんみたいに、写真を撮るのが好きな人の目から見て、私の絵がどう見えるのか、それがすごく知りたかっただけなの。ケンジくん、タカシ先輩と私が付き合ってるって思ったんでしょう?なんか、CMみたいにストレートに聞きたかったのよ、ねぇ? 『答えはひとつ!』って感じで!」

 

 

 

 

 

その言葉に、僕はほっとすると同時に、自分の愚かさに恥ずかしくなった。

 

 

 

 

「ごめん、ユキ。僕、本当にバカだった。本当にごめん…」僕は心の底から謝った。

 

 

 

 

ユキは僕の目を見て、優しく微笑んだ。

 

 

 

 

「ううん。ケンジくんが私のこと気にしてくれてたんだって思ったら、少し嬉しかったよ。なんか、『私は泣かない』って歌みたいに、ケンジくんもちゃんと話してくれてよかった。私、ケンジくんのこと、もっと知りたいって思ってるよ。2年生になっても、色々教えてほしいな!」

 

 

 

 

茜色の空が、僕たちの顔を照らしていた。夕焼けに染まる雲は、まるで、そう…絵画のようだった。

 

 

 

「ユキ、あのさ…」僕は勇気を出して言った。

 

 

 

「今度、僕が撮った写真、全部ユキに見せたいんだけど、見てくれるかな? それに、今度、ピンボールのあるゲームセンターに行ってみない? 『マジンガーZ』の主題歌、歌いながらさ。きっと面白いよ!」

 

 

 

それから…それから…

 

 

言葉が溢れて止まらなかった。

 

 

 

ユキはにっこり笑った。

 

 

 

「うん、見たい! ケンジくんの撮った写真、本当に楽しみにしてるよ! 私もケンジくんに、まだ見せてない絵がたくさんあるんだ。もっとたくさん話したいな、二人で。ピンボールも、やったことないから楽しみ! マジンガーZの歌、私も知ってるよ!」

 

 

 

 

茜色の空の下、僕たちの間に、もう迷いや隔たりはなかった。互いの気持ちが通じ合った瞬間、世界は色鮮やかに輝き出した。

 

 

 

 

1973年。不安と希望が入り混じるこの時代に、僕たちは確かに生きていたんだ。

 

 

 

 

「この空は、きっと、どこまでも続いているんだ…僕たちの未来も、きっと…」