SCENE

誰かの朝、誰かの夜。 すれ違う時間の中に、物語はひっそりと立ち上がる。 喜びや痛みが言葉になる前の、かすかな瞬間をすくい取るように。 これは、世界のどこかで息づく人々の、小さな「場面(シーン)」の記録です。by-魚住 陸 Riku Uozumi

SCENE#120  もはや、全員怪しい…洋館のティーパーティー事件 Everyone’s a Suspect: The Manor Tea Party Farce


第一章:豪邸に集められた「怪しい」招待客たちと不信のティータイム

 

 

 

 


霧の立ち込める山奥の断崖に立つ、巨大なヴィクトリア調の洋館「霧ヶ峰ハイカラ邸」。館の主である、世界的なマッチ棒コレクターの資産家・羅針盤 豪蔵(らしんばん ごうぞう)氏が、自身のコレクション発表会と称して、六人の招待客を集めた。

 

 

 

 

 

しかし、集まった人々は全員が、羅針盤氏から巨額の借金を負っているか、人生を左右するほどの奇妙な恨みを買っている、きわめて「怪しい」面々だった。誰もが羅針盤氏の死を望んでいるか、あるいは既に別の犯罪を犯しているかのように見えた。そして、ダイニングルームの巨大なマホガニーテーブルに、招待客がやってきた。

 

 

 

 

 

カミソリ頭脳の探偵こと、名探偵・金田一 五五六(きんだいち ごごろう)。頭から足先まで、隙間なくアルミホイルを巻き付けている。彼は「宇宙からの電波ノイズが私の推理を妨害している!」と主張し、招待客を常に疑いの目で見ていた。

 

 

 

 


完璧な執事こと、執事の茶柱 ・ティーパック。常に背筋を伸ばし、完璧なタイミングで紅茶を注ぐが、客が「ありがとう!」と言うたびに、突然立ち上がり無言で四股を五回踏むという、不可解な癖があった。

 

 

 


借金まみれの貴婦人こと、元オペラ歌手のアメリア・ササミ。羅針盤氏に多額の借金があり、会話の合間に突然、アヒルの鳴き声で『誰も寝てはならぬ…』のクライマックスを歌う練習を始める。

 

 

 


悲劇の画家こと、自称抽象画家のキャンバス・トントン。羅針盤氏に作品を「火をつけろ!」と酷評され、深い恨みを抱く。彼の会話の語尾は必ず「...かもね!」で、言葉尻が常に不安げに揺れている。

 

 

 

 


不審な科学者こと、生化学者で自称タイムトラベラーの時空院 ピヨ彦。常にポケットから冷凍餃子の粉を撒き散らしながら、「西暦3005年には人類は全員餃子を主食にする!」という未来のニュースを呟いていた。

 

 

 


そして、最後、館の主羅針盤 こと、豪蔵。マッチ棒コレクションの美しさにしか関心がなく、人の話は全てマッチ棒の本数に換算して返事をする。「今日の霧は美しいですね!」と言われても、「うむ、これはマッチ棒1500本分の価値がある光景だ…」と答える始末。

 

 

 

 

う〜ん、どう見ても、6人全員、ヤバそう…

 

 

 


全員が着席し、ティータイムが始まった。執事のティーパックが五五六に紅茶を差し出し、「どうぞ!」と言った瞬間、五五六は警戒心から「その紅茶は宇宙の法則に則っているか?」と問い詰めた。ティーパックは無言で四股を踏み、四股の衝撃でカップの紅茶が僅かに揺れた。誰もが殺人事件が起こることを期待し、むしろ自分が犯人になることを楽しみにしているかのように振る舞っていた。

 

 

 

 

 

 

 

第二章:紅茶の中に浮かんだ「不都合な証拠」とナンセンスの連鎖

 

 

 

 


深夜0時ちょうど、事件は呆気なく、そしてナンセンスに起きた。紅茶を飲んでいた羅針盤豪蔵氏が突然、劇場の役者のように苦しみだし、テーブルに倒れ込んだ。彼の口元からは、鮮やかな赤い液体が垂れていた。全員が驚愕するどころか、探偵の五五六は「ついに来たぞ!宇宙からの殺人電波が、この館に収束し、物質化したのだ!」と歓喜の声を上げ、アルミホイルのグローブを装着した。

 

 

 

 

 

五五六は、紅茶のカップを慎重に持ち上げ、中を調べた。すると、紅茶の表面には、毒物反応を示すどころか、きわめて「不都合で場違いな証拠」が三つも浮かんでいた。

 

 

 

 

・小さなプラスチック製の恐竜のフィギュア(ティラノサウルス)


・誰かの親指サイズの爪切り


・半溶解したマッチ棒の頭

 

 

 


執事のティーパックは「私は完璧なサービスを提供しました。ティーは最高級のダージリンです。恐竜、爪切り、マッチ棒はメニューにございません…」と冷静に主張し、五五六の目の前で四股を五回半踏んだ。科学者のピヨ彦は「これは白亜紀の恐竜だ!未来では紅茶が恐竜を召喚する!そして爪切りは未来の毒を、マッチ棒は未来の燃料を意味する!」と叫び、ポケットから取り出した冷凍餃子を三つ、証拠品の上に投げ入れた。

 

 

 

 

 

画家トントンは、その混沌とした状況を「恐竜、爪切り、餃子...究極のコンテンポラリーアート...かもね!」と評し、証拠の恐竜に絵筆を近づけ、無許可でその背中に青い点を描き始めた。被害者の安否は既に二の次となり、全員の関心は、これらの不都合な証拠品の出所と、いかにしてこのナンセンスな状況をさらに面白くするかという点に集中していた。

 

 

 

 

 

 

 

第三章:怪しい供述とアリバイの異常な同期

 

 

 


探偵五五六は、全員が同じくらい怪しいため、一人ずつ事情聴取を再開した。しかし、全員の供述が、事件の核心から遠く離れた、個人的な「怪しい」行動の告白で埋め尽くされ、混乱は極まった。

 

 

 

 

貴婦人ササミ→「私は羅針盤氏を恨んでいるわ、その借金はマッチ棒50万本分よ!でも、殺すなんてオペラを汚す行為はしない。事件発生時、私はこの館の屋根裏で、アヒルの鳴き声で『アイーダ』の凱旋行進曲を歌う練習をしていたのよ。屋根裏のトタン屋根が共鳴して最高の音響効果だったわ。誰か聞いてたかしら?」

 

 

 

 


画家トントン→「僕には完璧なアリバイがある...かもね!事件発生時、僕は自室で、目隠しをしてマッチ棒を垂直に立てて並べるという、羅針盤氏を皮肉った抽象的なパフォーマンスアートを描いていたんだ。ただし、途中で執事の四股の振動のせいで、マッチ棒が全部バラバラになっちゃって、怒ってそれを紅茶のカップに入れたんだ...かもね!」

 

 

 

 


科学者ピヨ彦→「私は犯人ではない。私はあの時、この館の地下室で過去の自分に冷凍餃子の賞味期限を知らせるという、極めて重要なタイムトラベル任務を遂行中だった。その証拠に、冷凍餃子が30個、私のポケットの中で未来の電波を受信している...」

 

 

 

 


執事ティーパック→「私は常に羅針盤様にお仕えしております。事件時もこの部屋のドアの前で待機しておりましたが、先ほど申し上げた四股を五回半の儀式を合計37回行っていたため、目撃情報はありません。完璧なサービスには完全な集中が必要です!」

 

 

 

 


探偵五五六は、供述を聞きながら、アルミホイルの帽子を深く被り直した。「よし、全員のアリバイが成立しないどころか、全員が同じ時間帯に、同じ場所の『屋根裏でアヒル、自室でマッチ棒、地下室で餃子』という、全く同じナンセンスな行為に及んでいたことが判明した!これは、全員が互いの『怪しさ』を同期させているという宇宙の陰謀だ!もはや、全員が怪しい!」と、探偵は宇宙からの電波に結論を委ねた。

 

 

 

 

 

 

第四章:アルミホイルに隠された探偵の秘密と鳥の陰謀

 

 

 

 


状況は事件解決からさらに遠ざかり、探偵五五六自身が、容疑者たちの間で、最も「怪しい」行動をとり始めた。彼は、館の廊下で突然立ち止まり、アルミホイルの帽子を壁に近づけ、小声で必死に話しかけ始めた。

 

 

 

 

「待ってくれ、宇宙船からの指示が途切れた!羅針盤氏は、実は宇宙人のアバターだ。彼の本当の宝は、マッチ棒ではなく、人間の鼻毛の長さの平均値を記録した古代の羊皮紙らしいぞ。それを盗んだ犯人は…」

 

 

 

 

その時、異様な光景に耐えきれなくなった執事ティーパックが、無言で四股を踏みながら、五五六のアルミホイルの帽子を乱暴に剥ぎ取った。帽子が剥がされると、五五六の頭の上には、小さな鳥の巣が乗っており、ヒナ鳥が二羽、「ピーピー!」と大きな口を開けて餌を待っていた。五五六は顔を真っ赤にして慌てて鳥の巣を隠しながら叫んだ。

 

 

 

 

「これは私の相棒なんだ!宇宙からのメッセージを解析するために、鳥の第六感と電磁波を利用しているのだ!これは機密だ!」

 

 

 

 

しかし、鳥の巣の傍には、彼のポケットからこぼれた高級な鳥の餌の袋が置かれていた。五五六が、実は事件の捜査よりも、頭の上で鳥を飼育する極度の鳥好きであることが、完全にバレてしまったのである。もはや事件を解決するはずの探偵自身が、事件の最も「怪しい」人物となってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

第五章:被害者の「復活」とマッチ棒の奇妙な価値基準

 

 

 

 


頭の上に鳥の巣を乗せた探偵が混乱する中、被害者と思われていた羅針盤氏が、倒れてから3時間と15分後、突然ムクリと起き上がった。全員が驚愕の声を上げ、羅針盤氏に駆け寄った。羅針盤氏は平然とした顔で、倒れていた間の出来事など一切気にせず言った。

 

 

 

 

「ああ、すまない…紅茶の中に恐竜が入っていたから、驚いて軽い失神を起こしただけだ。私が飲んだ赤い液体は、私のポケットに入れていたミニトマトが、倒れた衝撃で潰れたものだ。このミニトマトは、品種改良の失敗作で、マッチ棒で数えてみると、ミニトマトは全部で48本分の価値がある。しかし、恐竜フィギュアはマッチ棒換算でマイナス500本分の価値だ…」

 

 

 

 

 

被害者の復活により、殺人事件の線は消え、全員が「怪しい」容疑者から解放されるかと思われた。しかし、探偵五五六は「待て!被害者が生きていることこそが、我々の捜査を混乱させる最大のトリックだ!事件はまだ終わっていない!」と叫び、羅針盤氏を再び容疑者とみなした。

 

 

 

 

「羅針盤氏、あなたの自室の、鍵はどこだ?その恐竜の出所を探る!」

 

 

 

 

羅針盤氏は首を傾げ、「鍵?ああ、自室の鍵は、私が今朝、暇つぶしに世界で一番細いマッチ棒で作ったミニチュアの椅子の中に隠してある。その椅子は、この館の暖炉の中にある、去年の新聞紙で作った鶴の足元に置いたよ。ちなみに、この鶴はマッチ棒で数えると3000本分の価値がある…」

 

 

 

 

 

全員が、事件の謎よりも、その奇妙な隠し場所と、全てをマッチ棒の価値に換算する羅針盤氏の独自の価値基準に、疲労と怒りを覚えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

第六章:屋根裏での「アヒルのオペラ」とナンセンスな真犯人の告白

 

 

 

 


全員が羅針盤氏の自室の鍵を探すため、暖炉に向かい、新聞紙の鶴を解体している最中、屋根裏から突然、凄まじいアヒルの鳴き声による『椿姫』の合唱が響き渡った。その音量は、館の窓ガラスを震わせるほどだった。

 

 

 

 

 

貴婦人ササミは「ああっ!私の椿姫の最終リハーサルが!」と叫び、屋根裏へ駆け上がった。屋根裏には、ササミが置いていたテープレコーダーがあり、そこには、彼女のアヒルの鳴き声によるオペラの練習が録音されていた。テープの再生速度を上げるボタンを鳥が誤って踏んだため、合唱になっていたのだ。

 

 

 

 

 

その時、混乱の中、科学者のピヨ彦が突然、顔を青くして叫んだ。

 

 

 

 

「私だ!私が真犯人だ!私が紅茶に恐竜を入れたんだ!」

 

 

 

 

全員の視線がピヨ彦に集まった。彼は自供を始めた。しかし彼の動機は、驚くほどナンセンスだった。

 

 

 

 

「羅針盤氏がマッチ棒で全てを数えるのが気に入らなかった!だから、私は紅茶に恐竜を入れた!あれは、未来で紅茶に恐竜のフィギュアを入れるのが流行り、それが社交界の新しい通貨になるというニュースを見て、試したかっただけだ!羅針盤氏が驚くことも、未来のニュースで知っていたんだ!」

 

 

 

 

 

ピヨ彦は泣きながら、自供と全く関係のない未来のニュースを続けた。

 

 

 

 

「未来では、冷凍餃子は金ではなく、純粋な信仰の対象になっている!だから私は今日、30個持ってきたんだ!お願い許して!」

 

 

 

 

彼は、犯行の動機も、自供の内容も、証拠も、すべてがナンセンスだった。そして、冷凍餃子を一つ暖炉の火の中に投げ入れた。

 

 

 

 

 

 

 

第七章:探偵の最終結論:怪しいという共通点とマッチ棒のメッセージ

 

 

 

 


警察が到着し、ピヨ彦を連行しようとするが、探偵五五六はそれをアルミホイルのグローブで制した。

 

 

 

 

「待て!犯人はピヨ彦ではない。ピヨ彦の動機は、ナンセンスではあるが、真実ではない!」

 

 

 

 

五五六は、アルミホイルの帽子をゆっくりと外し、頭の上の鳥の巣を抱えながら、真実を語り始めた。

 

 

 

 

「真犯人は、この中にいる。そしてそのヒントは、羅針盤氏が酷評し、トントンが描いたマッチ棒の抽象画にある!」

 

 

 

 

 

五五六は、トントンが自室で垂直に並べたマッチ棒の配置を再現し、指差した。

 

 

 

 

「垂直に並べられたマッチ棒の配置は、実はモールス信号だったのだ!そのメッセージは『紅茶に恐竜を入れてみたよ。驚いてね!』という、極めて幼稚な、そして芸術的なメッセージだった!」

 

 

 

 

 

画家トントンは「あーあ、アルミホイルの頭脳には負ける...かもね!」と肩をすくめた。

 

 

 

 

「羅針盤氏に酷評されたから、彼のコレクション(マッチ棒)を使って、最高のナンセンスアートを作りたかっただけ...かもね!」

 

 

 

 

最終的に事件は解決したが、警察は、殺人事件が起きなかったにもかかわらず、屋根裏のアヒルオペラ、冷凍餃子の通貨説、アルミホイルの帽子と鳥の巣、そしてマッチ棒のモールス信号の件で、館にいた全員を「公衆の平穏を乱した容疑」で事情聴取することになった。

 

 

 

 

 

全員が警察署へ連行される車の中で、探偵五五六は満足げにアルミホイルの帽子を被り直した。鳥たちは彼の頭の上で気持ちよさそうにさえずっている。

 

 

 

 

「事件の真実なんてどうでもいい。この館で重要なのは、全員が何らかの理由で怪しく、誰もその怪しさを隠そうとしなかったことだ。これこそが、人間という存在の、最も純粋で滑稽な最終結論(ファイナル・アンサー)だよ…」

 

 

 

 

こうして、「もはや、全員怪しい…」という、ナンセンスな共通点を持つ人々は、静かに霧の中へと消えていった…