SCENE

誰かの朝、誰かの夜。 すれ違う時間の中に、物語はひっそりと立ち上がる。 喜びや痛みが言葉になる前の、かすかな瞬間をすくい取るように。 これは、世界のどこかで息づく人々の、小さな「場面(シーン)」の記録です。by-魚住 陸 Riku Uozumi

SCENE#134   本日はお日柄も良く、ごっちゃんです! Sumo Mayhem on a Ridiculously Fine Day

第1章:食いしん坊の入門と四股名の悲劇

 

 

 

 


伝丸は、高校の卒業文集に「将来の夢:食費無料!」と書いた、純粋な食の探求者である。彼はその夢を叶えるため、虎ノ岩部屋の門を叩いた。入門の動機を問われた伝丸は、目を輝かせながら「一生分、ちゃんこが食べられると聞きました!」と親方に告白し、親方(元大関・虎ノ岩)は既に胃がキリキリ痛み始めた。

 

 

 


入門初日、朝稽古後の「ちゃんこ鍋」の儀式。兄弟子たちが一人前ずつ上品によそる中、伝丸は直径50cmの大鍋を抱え込み、横綱クラスの分量をわずか5分で平らげた。親方が驚愕の声を上げる中、伝丸は「おかわり、ごっちゃんです!」と鍋を親方に差し出した。親方はこの食欲を「大器の片鱗」と解釈しようと奮闘したが、現実の食費計算機が彼の脳内で赤字を叫んでいた。

 

 

 


「よろしい。貴様は食うことにかけては一流だ!今日から貴様の四股名は『飯食い山(めしくいやま)』だ!」親方は苦渋の決断を下した。

 

 

 


伝丸は「え、漢字がそのまま過ぎませんか!?そんな四股名はイヤです!」と涙ながらに抗議するも、親方は聞く耳を持たない。

 

 

 

 

その夜、部屋の財政を心配した親方が隠していた「相撲協会賞・純金箔入り優勝記念特大どら焼き(重さ2kg、非売品)」が消滅した。伝丸の腹の中に収まっていたことが発覚し、部屋は親方の「どら焼きぃぃぃ!」という絶叫で揺れた。伝丸の力士生活は、相撲より食費の管理が重要という異常な形で幕を開けた。

 

 

 

 

 


第2章:稽古場を揺るがす「奇跡の腰軽さ」と兄弟子の悲劇

 

 

 


伝丸の相撲稽古は、物理法則と相撲の常識を無視していた。親方が相撲の基本中の基本「腰を割れ!地面に根を生やせ!」と指導しても、伝丸の腰は羽毛のように軽く、すぐに不安定に浮き上がってしまう。

 

 

 


ある日のぶつかり稽古。兄弟子の剛力山は、伝丸を土台にして押し込みの練習をしようとした。体重160kgの剛力山が渾身の力を込めて伝丸にぶつかった瞬間、伝丸は体重の割に異常なまでの反射速度で体勢を変化させた。それは相撲技ではなく、ただの回避本能だった。

 

 

 

 

「しまった、お腹が空きすぎて、ぶつかる体力がもったいない!」と伝丸が心の中で思った瞬間、剛力山は伝丸の胴体をすり抜け、まるで巨大なボーリング玉のように土俵を滑走。そのまま稽古場の壁を破り、外の植え込みまで突っ込んでいった。壁には剛力山のシルエットがくっきりと残った。兄弟子たちは「あれは高速透かし技か!?」と騒然とするが、伝丸は「剛力山関、ごめんなさい…無駄なエネルギーを使いたくなくて…」と弁明した。

 

 

 

 


この日以来、剛力山は首と腰にコルセットを装着して稽古に臨むようになった。稽古場は伝丸の「奇跡の腰軽さ」によって、予測不能な二次災害が起こる危険地帯となり、親方は毎朝、稽古場の壁に開いた穴の修理費の見積もりを眺めるのが日課となった。

 

 

 

 

 

 


第3章:ちゃんこ番の密約と、相撲協会の抜き打ち検査(芋編)

 

 

 

 


伝丸の食欲は部屋の台所を滅亡の危機に瀕させていた。月末、親方は部屋の食費の請求書を見て、「横綱3人分の食費より伝丸一人分が多い!」という驚愕の事実を発見し、吐血寸前となった。事態を憂慮した伝丸は、料理の腕が神がかっているおかみさんに密談を持ちかけた。

 

 

 


「おかみさん、お願いです!僕はクビになってもいいです。でも、おかみさんのちゃんこを食べられなくなるのは、僕は絶対にイヤです!」

 

 

 


伝丸の純粋な食い意地に感動したおかみさんは、伝丸との「裏ちゃんこ密約」を結んだ。おかみさんは、仕出し弁当の余り、近所の漁師からの規格外の巨大魚、そして農家から無料で引き取った「豊作すぎて廃棄寸前の巨大サツマイモ」などを秘密裏に調達し、伝丸に栄養満点の「闇ちゃんこ」を深夜に提供し始めた。

 

 

 


そんな折、相撲協会から「力士の健康管理と食費予算遵守のための抜き打ち検査」が通達された。親方は伝丸の食費をごまかすため、すべての食材を隠し、冷蔵庫を空にするよう指示した。

 

 

 

 


検査当日、協会役員が冷蔵庫を開けると、そこには水と冷やし麦茶しか入っていない。親方が安堵の微笑みを浮かべた瞬間、役員は稽古場の土俵下に妙に膨らんだ土俵の隆起を発見した。土を掘り返してみると、そこには伝丸が防腐処理して隠し持っていた、数十袋分の巨大サツマイモの段ボールが埋まっていた。

 

 

 


「これは…緊急時の栄養補給用です!まわしがほどけた時用の!」

 

 

 

 

伝丸はサツマイモを抱きしめて絶叫した。親方の「いい加減にしろぉ!」という怒鳴り声と、役員の「相撲部屋に地下食料庫とは…!」という困惑の声が木霊し、伝丸の食への執念が公に暴かれる結果となった。

 

 

 

 

 


第4章:初土俵の緊張と、まわしがほどける大惨事(実況解説付き)

 

 

 


食費騒動を経て、ついに伝丸の初土俵の日がやって来た。本場所の舞台は緊張感に満ちていたが、伝丸の心は空腹で満ちていた。空腹と前夜のサツマイモの夢のせいで、極度の緊張状態だ。相手は「鉄壁」の異名を持つベテラン力士。親方からは「まわしを漁師結びで固めた。絶対にほどくなよ!」と念を押されていた。

 

 

 


立ち合い。伝丸は親方の教えを守り、渾身の力で相手にぶつかろうとする。しかし、相手の強烈な突きを受けた瞬間、伝丸の体が相撲の原理から逸脱した。

 

 

 


実況: 「あぁっと!飯食い山、立ち合いで浮いた!まるで紙風船だ!」

 

 

 


解説(元横綱): 「こんなに腰の軽い力士は見たことがない!体重はどこへ行ったんだ!?」

 

 

 


そして、伝丸が土俵に着地した瞬間、漁師結びも耐えきれないほどの激しい回転運動の遠心力で、まわしがスローモーションのようにほどけていった。

 

 

 

 


実況: 「ま、まわしが!まわしが緩やかにほどけていくぅぅ!これは…これは相撲界のブラックホール事象だ!」

 

 

 


伝丸は悲鳴を上げながら、慌てて両手でまわしを抑えた。そのコミカルな姿に、観客席は笑いの波にのまれた。相手力士は「何が起こった?」と茫然自失。勝負は、伝丸があまりの恥ずかしさで土俵に「頭突きで穴を開ける勢い」で突っ伏し、審判が続行不可能と判断して中止に。

 

 

 


伝丸の初土俵は、相撲技ではなく、「身体の一部が機能不全を起こした」という極めて異例の結末となり、彼は一躍、全国的な「笑いの種」として知られることとなった。

 

 

 

 

 


第5章:地域貢献と「力士型ゆるキャラ」の誕生(着ぐるみの内側)

 

 

 


例のまわし事件で伝丸はすっかり部屋に引きこもりがちになってしまい、「僕はちゃんこを食べる以外何もできない…」と落ち込んでいた。親方は、イメージ回復と精神修行のため、地元の商店街の「秋の収穫祭り」への参加を命じた。

 

 

 

 


地元商店街は、伝丸の失敗を「笑いの神が舞い降りた!」と大歓迎。そして、イベントの目玉として、伝丸をモデルにした「ごっちゃん丸」という、白と青のまわしを着用した力士型ゆるキャラを作成した。当然、「ごっちゃん丸」の中身は伝丸自身が務めることになった。

 

 

 


猛暑の中、着ぐるみの中に閉じ込められた伝丸は、極度の空腹と蒸し暑さに耐えながら、商店街を練り歩く。彼の視界は汗で曇り、意識は朦朧とし、頭の中は「着ぐるみの中の断熱材は食べられるか?」という問いでいっぱいだった。

 

 

 

 


しかし、伝丸はその中で、迷子になった子供を抱き上げたり、八百屋の重すぎる野菜の箱を軽々と運んだりするうちに、相撲では得られなかった「他人を助ける喜び」を感じ始めていた。

 

 

 


祭りのフィナーレ。地元のテレビ局が中継する中、伝丸は着ぐるみを脱いで観客に挨拶をする予定だった。しかし、空腹の限界に達した伝丸は、挨拶の前に「着ぐるみの頭部パーツ」を勢いよく外し、そのまま近くの屋台の焼き芋に飛びついた。

 

 

 

 


テレビカメラの前で、着ぐるみの中から汗だくの力士が焼き芋に噛みつくという衝撃映像が全国に流れた。この人間離れした食への執念が、逆に「飾らない」「純粋」と評価され、伝丸は「親近感の塊の力士」として、ゆるキャラと共に人気が爆発した。

 

 

 

 

 

 


第6章:最大の試練!親方 vs 伝丸の食費賭け勝負(塩まみれ)

 

 

 


人気者になったとはいえ、伝丸の相撲成績はちっとも振るわず、食費だけは右肩上がり。親方の胃痛は限界に達し、病院から「ストレス性胃潰瘍」の診断が出た。ついに親方は、伝丸に対し、最後の通告を突きつけた。

 

 

 


「ごっちゃん(四股名はまだ飯食い山だが)、次の場所で勝ち越しできなければ、貴様はクビだ。食費は協会に頼んでなんとかするが、貴様を養う経済力はもう部屋にはない!」

 

 

 


伝丸は打ちひしがれるが、その時、おかみさんが彼の背中を押した。

 

 

 

 

「あんたが相撲を取る理由は、ちゃんこだけじゃないでしょう?あんたが土俵に立つと、みんなが笑うのよ!」

 

 

 


そして、運命の場所、最終戦。伝丸の相手は、なんと、なんと親方自身?!だった。引退した親方が、伝丸のこれからの相撲人生を賭けて、まわしを締めて自ら土俵に上がったのだ。

 

 

 


立ち合い。親方は伝丸の軽すぎる腰を警戒し、重い押しで伝丸を土俵際に追い詰めた。伝丸は苦し紛れに腰を割ろうとするが、体が勝手に動く。

 

 

 


その瞬間、伝丸は空腹と恐怖が極限に達したことで、体がバネのように跳ね上がり、親方の重い体を予測不能な回転体として受け流した。親方は「ぐおっ!」という声を上げ、伝丸の回転の勢いに巻き込まれ、バランスを崩し、親方は土俵の外の、力士が清めの塩を撒くための巨大な塩の山に、頭から突っ込んでいった。

 

 

 

 


実況: 「あぁっと!親方、塩に埋まった!まるで雪山遭難だ!」

 

 

 


親方は塩まみれで審判に軍配を差し出す隙もなく、伝丸の「無意識の回転回避」によって、伝丸の不戦勝という異例の結末。親方は全身塩まみれで土俵に戻り、伝丸の「食への執念」が生み出した、相撲史上最も塩辛い勝利に、ただ呆然とするのだった。

 

 

 

 

 


第7章:本日はお日柄も良く、ごっちゃんです!、そして新たな刺客

 

 

 


「食費賭け勝負」の勝利で、伝丸は無事に部屋残留。相撲協会は彼の予測不能な相撲を「新時代のエンターテイメント」として公認し、四股名も正式に「ごっちゃん丸」に改名された。

 

 

 


ごっちゃん丸の初めての勝ち越し(親方に勝ったため)を祝う部屋を上げての祝勝会。部屋には、おかみさん特製の、史上最も豪華なちゃんこ鍋が並んでいた。親方(顔にはまだ塩が残っている)は、胃薬を飲みながらも穏やかな顔で語った。

 

 

 


「ごっちゃん丸。貴様の相撲は、技術がない。しかし、貴様の食欲と人柄が、人々を笑顔にする。これからも、ごっちゃん丸らしく、土俵で暴れ回るがいい!」

 

 


ごっちゃん丸は感涙し、御椀ではなく鍋から直接ちゃんこをかき込んだ。そして、部屋に訪れていたカメラに向かって力強く挨拶をした。

 

 

 


「本日はお日柄も良く、ごっちゃんです!」

 

 

 


こうして、相撲界の常識を覆したごっちゃん丸のドタバタ奮闘記は一区切りついた。が…

 

 

 


その祝勝会の夜遅く。部屋の裏口から、一人の若い男が顔を出した。その男は、ごっちゃん丸に負けず劣らず巨大な体躯を持ち、手には「フードファイター世界選手権・三連覇」のトロフィーを抱えていた。

 

 

 


「この部屋は、食費が無料なんですよね?…僕、食費という名の敵を倒すために、ぜひ、この部屋に入門したいんですが…」

 

 

 


その男の登場に、親方の胃痛は再発した。ごっちゃん丸のドタバタ奮闘記は、「新米力士vs元フードファイター」という、食費と食欲を賭けた次なる地獄の戦いへと続くのであった…

 

 

 


— 続く?—