SCENE

誰かの朝、誰かの夜。 すれ違う時間の中に、物語はひっそりと立ち上がる。 喜びや痛みが言葉になる前の、かすかな瞬間をすくい取るように。 これは、世界のどこかで息づく人々の、小さな「場面(シーン)」の記録です。by-魚住 陸 Riku Uozumi

SCENE#350    ステレオタイプ 〜完璧すぎる「型」の男、街へ出る!〜 Stereotype: The Too-Perfect Man Hits the City

第一章:唐草模様の訪問者

 

 

 

 

 

その男、一文字型平(いちもんじ・かたひら)が街に現れたとき、商店街の空気は一瞬にして昭和の中期へと巻き戻された。六月の蒸し暑い午後だというのに、型平は着古した腹巻きに半纏を羽織り、鼻の下には墨で書いたような立派な泥棒髭を蓄えていた。そして何より、彼の背中にはこれでもかというほど巨大な「唐草模様の風呂敷」が背負われていたのである。

 

 

 

 

 


「いやあ、今日も良い盗み日和だ!これぞまさに、絵に描いたような泥棒の姿よ…」

 

 

 

 

 


型平は満足そうに頷き、誰が見ても不審者以外の何者でもない足取りで、高級住宅街へと足を踏み入れた。

 

 

 

 

 


彼の人生の目的はただ一つ。この世にはびこる「ステレオタイプ」を完璧に体現することだ。彼にとって、泥棒とは唐草模様の風呂敷を背負い、忍び足で抜き足差し足をする存在でなければならなかった。現代の、黒ずくめのパーカーに目出し帽という味気ないスタイルなど、断じて認められないのである。

 

 

 

 

 

 


 「さてと、どこかにステレオタイプな豪邸はないものか。門には猛犬がいて、壁には泥棒除けのガラス片が埋まっているような、古き良き家が…」

 

 

 

 

 


型平がキョロキョロと辺りを見回していると、目の前にそびえ立つ超近代的な豪邸が現れた。そこはガラスとコンクリートで構成された、要塞のような建物。

 

 

 

 

 


「ふむふむ、犬はいないが、代わりに監視カメラという無機質な文明の利器か。よし、あえてここを『ステレオタイプな泥棒術』で攻略してやろうじゃないか!」

 

 

 

 

 


型平は懐から一本の針金を取り出した。

 

 

 

 

 


「泥棒といえば針金一本で鍵を開けるものよ。電子錠だろうが何だろうが、型さえ守れば開くはずだ…」

 

 

 

 

 


彼は玄関のタッチパネル式のスマートロックに向かって、真剣な顔で針金を突っ込んだ。当然、何も起きない。どころか、最新式の防犯システムが「不正な接触を検知しました!!」と、合成音声で警告を発した。

 

 

 

 

 


「おっと、今の時代は喋るのか。礼儀正しいことだ…」

 

 

 

 

 


型平は全く動じない。彼は風呂敷の中から、これまたステレオタイプな「大きなハシゴ」を取り出した。どこに隠していたのか不思議なほどのサイズだが、型平にとって「泥棒はどこからともなくハシゴを出すもの」なので、物理法則など二の次なのだ。ハシゴを壁にかけ、型平はスルスルと二階のベランダへと登っていった。

 

 

 

 

 

 


「抜き足、差し足、忍び足……。おっと、ここで住民に見つかって『泥棒よー!』と叫ばれ、追いかけっこが始まるのが様式美っうもん!」

 

 

 

 

 


彼はわざと足音を立ててベランダに着地した。すると、部屋の中から一人の若者が現れた。彼は最新のVRゴーグルを装着し、手にはコントローラーを握っている。

 

 

 

 

 


「……え、何? 新しいARの広告?」

 

 

 

 

 

 


若者は型平の姿を見て、手をかざした。

 

 

 

 

 


「こら若者よ! 私は正真正銘の泥棒だぞ! 早く驚いて、警察に通報しなさい!」

 

 

 

 

 


型平が怒鳴ると、若者は感心したように頷いた。

 

 

 

 

 


「すげぇ、このレトロな質感。唐草模様の風呂敷とか、歴史博物館でしか見たことないし。おじさんさ、どのアプリのキャラクター?」

 

 

 

 

 


型平は深くため息をついた。

 

 

 

 

 


「嘆かわしいのぅ。ステレオタイプが通じないとは、教育の敗北だ。いいか、私は今から君の家の家宝を盗む。君は『泥棒、待てー!』と言いながら私を追いかけるんだ。分かったか?」

 

 

 

 

 


「あ、はい。じゃあ一応、SNSにアップしていいですか? 『庭に昭和の泥棒が湧いた』って!」

 

 

 

 

 


「まぁ、構わんが。宣伝は大事だ!」

 

 

 

 

 


型平は若者の目の前で、リビングにあった高価そうな金色の置物(実際はただのプラスチック製のトロフィーだったが、型平の目には金塊に見えた…)を風呂敷に詰め込んだ。

 

 

 

 

 


「さらばだ! 追ってきても無駄だぞ!」

 

 

 

 


型平はベランダからハシゴを滑り降り、全力で走り出した。

 

 

 

 

 


「あ、待てー(棒読み)」

 

 

 

 

 


若者がスマホを片手に追いかけてくる。これだ。これなのだ。これこそが型平の求めていた「型」だった。彼は幸せを感じながら、次のステレオタイプな現場へと向かうことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


第二章:額の反射鏡と、ハイテク手術室

 

 

 

 

 


泥棒としての「型」を全うした型平は、次に「名医」のステレオタイプを体現することに決めた。彼は商店街の裏にある古着屋で、パリッとした白衣と、額に装着する大きな「円形反射鏡」を手に入れた。今の医者は誰もそんなものをつけていないが、型平にとっては、反射鏡をつけていない医者はモグリと同じであった。

 

 

 

 

 

 


「よし、医者といえば、難病に悩む少女を救い、『お医者さん、ありがとう』と言われて去っていくのが王道なのだ!」

 

 

 

 

 


型平は反射鏡をキラリと光らせ、街で最も大きな総合病院へと突撃した。受付の看護師が、型平の姿を見て固まった。

 

 

 

 

 


「……あ、あの、どちら様でしょうか? ドラマの撮影でしょうか?」

 

 

 

 

 


「失礼な。私は天才外科医、一文字だ。今すぐ、最も困難な手術を私に任せなさい。麻酔なしで、メス一本で奇跡を起こして見せよう!」

 

 

 

 

 


看護師は困惑したが、型平のあまりにも堂々とした態度と、額の反射鏡の威圧感に圧倒され、「あ、はい、では第三手術室へ……」と案内してしまった。型平の「型」が持つ謎の説得力は、時として常識を上書きしてしまう。手術室に入ると、そこでは最新の遠隔操作ロボットによる精密手術が行われようとしていた。

 

 

 

 

 

 


「待てい! そんな機械に頼って何が医者だ!」

 

 

 

 

 


型平が乱入すると、執刀医たちが目を丸くした。

 

 

 

 

 


「何だ君は! 不審者か!」

 

 

 

 

 


「私はステレオタイプな名医だ! 見ろ、この額の鏡を! これで光を集めて患部を照らすのだ!」

 

 

 

 

 


型平は手術室の無影灯を無視し、窓から差し込むわずかな日光を反射鏡で拾おうと、首を激しく上下に振った。

 

 

 

 

 


「邪魔だ、どきたまえ! 患者の容態は!」

 

 

 

 

 


手術台に横たわっていたのは、盲腸の炎症を起こした中年の男性だった。

 

 

 

 

 


「よし、医者といえば『手術は成功だ』と告げるのが仕事。そのためにはまず、汗を拭く看護師が必要だ。おい、君! 私の額の汗を拭け!」

 

 

 

 

 


型平は近くにいた研修医に命じた。

 

 

 

 

 


「えっ、あ、はい……」

 

 

 

 

 


研修医はなぜか逆らえず、ガーゼで型平の乾いた額を拭った。

 

 

 

 

 


「ふむふむ、準備は整った!」

 

 

 

 

 

 


型平は懐から、なぜか錆びた包丁を取り出した。

 

 

 

 

 


「そんなもので手術ができるわけないだろ!」

 

 

 

 

 


「シャラップ! 名医は道具を選ばないものだ! 『私に失敗はない』と言えば、すべては上手くいくのだ!」

 

 

 

 

 


型平が包丁を振りかざした瞬間、最新鋭のロボットアームが彼の腕を優しく、そして強固に掴んだ。

 

 

 

 

 


「あ痛たた! 何だこの機械は、礼儀を知らんのか!」

 

 

 

 

 


「セキュリティが作動しました。外部からの未認証個体を排除します!」

 

 

 

 

 


AIの声とともに、型平は手術室から勢いよく放り出された。廊下に転がった型平だったが、彼は満足そうに反射鏡を直した。

 

 

 

 

 


「ふっ、名医は常に孤独なもの。私の技術が時代を先取りしすぎただけだ。しかし、看護師に汗を拭かせるという重要な型は達成できた…」

 

 

 

 

 


病院を追い出された型平の前に、一人の少女が立っていた。

 

 

 

 


「おじさん、大丈夫?」

 

 

 

 

 


「おお、少女よ。私は天才外科医だ。どこか悪いところはないか?」

 

 

 

 

 


「ううん、元気。でも、おじさんの頭の鏡、かっこいいね。戦隊ヒーローみたい!」

 

 

 

 

 


「……ヒーローか。それも一つの型だな!」

 

 

 

 

 


型平は少女に飴玉を渡し、マントを翻すように白衣をなびかせて立ち去った。少女は「この飴、賞味期限切れてる……」と呟いたが、型平の耳には届かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


第三章:瓶の底眼鏡と、暗黒のハッカー

 

 

 

 

 

 


次に型平が目をつけたのは、「天才ハッカー」のステレオタイプであった。彼は秋葉原のジャンク屋で、渦巻き模様の描かれた「瓶の底のような眼鏡」を購入した。さらに、指先が出るタイプの黒い手袋と、無駄にフードの大きいパーカーを羽織った。

 

 

 

 

 


「ハッカーといえば、暗い部屋で緑色の文字が流れるモニターを十枚くらい並べ、『エンターキー』をッターン!と叩いて世界を救うものだ!」

 

 

 

 

 

 


型平は街のコワーキングスペースに陣取って、私物の古いタイプライターを広げた。

 

 

 

 

 


「さてと、どこかにハッキングすべき邪悪な組織のサーバーはないものか…」

 

 

 

 

 

 


偶然にも、そのスペースの隣の席では、本物のサイバー犯罪組織のハッカーが、軍事施設のネットワークに侵入しようと格闘していた。

 

 

 

 

 


「くそっ、ファイアウォールが突破できない……。あと一歩なのに!」

 

 

 

 

 


若きハッカーが頭を抱えていると、横から瓶の底眼鏡を光らせた型平が声をかけた。

 

 

 

 

 


「おい、若者。タイピングが遅いぞ。ハッカーというものは、一秒間に百文字は打たねばならん!」

 

 

 

 

 


「あ…あんた誰だよ……。っていうか、それタイプライターだろ。ネットに繋がってねーじゃん!」

 

 

 

 

 


「繋がっているかどうかではない。ハッキングとは『気合』と『指先の残像』だ。見ろ、私の超高速タイピングを!」

 

 

 

 

 


型平はタイプライターのキーを、猛烈な勢いで叩き始めた。

 

 

 

 

 


ジャジャジャジャジャジャッ! ガチャン! チーン!ベルの音が鳴るたびに、型平は「アクセス完了!」「バックドアを開いたぞ!」と叫びまくった。

 

 

 

 

 


「うるせぇな、おっさん! 集中できないだろ!」

 

 

 

 

 


若きハッカーが再び怒鳴ろうとしたその時、彼のモニターに異変が起きた。

 

 

 

 

 


「な、なんだ!? ファイアウォールが次々と崩壊していく……! システムが過負荷でパニックを起こしてる!!」

 

 

 

 

 


実は、型平がタイプライターを叩く激しい振動と、その際に発生した謎の電磁波(あるいは彼の『型』が持つ超自然的な力)が、偶然にもコワーキングスペースのWi-Fiルーターに干渉し、無作為なパケットを大量に送信してしまっていた。

 

 

 

 

 

 


「よし、仕上げだ! ウイルスを注入する!」

 

 

 

 

 


型平は最後の一打を、渾身の力でッターン!と叩いた。その瞬間、若きハッカーのパソコンが火花を散らして爆発した。

 

 

 

 

 


「ぎゃああ! 俺のパソコンがぁ!」

 

 

 

 


「ふっ、ハッキング成功。邪悪なデータは今、このタイプライターのインクリボンの中に封印した…」

 

 

 

 

 


型平は満足そうに、印字された「あいうえお」の羅列を眺めた。そこへ、防弾チョッキを着た特殊部隊がなだれ込んできた。

 

 

 

 

 


「動くな! サイバーテロの容疑で逮捕する!」

 

 

 

 

 

 


「おお、ハッカーといえば逮捕されてから国家に雇われるのがお決まりの展開だな! さあ、私を連れて行け!」

 

 

 

 

 


型平は自ら手を差し出した。

 

 

 

 

 


「……いや、眼鏡のアンタじゃなくて、この爆発したパソコンの若者の方だ!」

 

 

 

 

 

 


特殊部隊員は型平を無視して、泣き崩れる若きハッカーを連行していった。取り残された型平は、瓶の底眼鏡を曇らせながら呟いた。

 

 

 

 

 


「おかしいな。普通ならここで『君の才能を国のために使わないか』という黒服の男が現れるはずだが。まあいい、ステレオタイプなハッカーとしての仕事を完遂できた。次は……そうだな、正義のヒーローといこうか!」

 

 

 

 

 


彼はタイプライターを風呂敷に包み、忍び足でその場を去った。

 

 

 

 

 

 

 

 


第四章:段ボールのパワードスーツと、公園の決闘

 

 

 

 

 

 


型平が次に選んだステレオタイプは「特撮ヒーロー」であった。彼は近所のスーパーで大量の段ボールを調達し、赤いペンキで塗りつぶした。頭にはバケツを被り、胸には「一文字」と力強く書かれた紙を貼り付けた。

 

 

 

 

 


「ヒーローといえば、無駄に長い変身ポーズをとり、爆発を背に名乗りを上げるものだ!」

 

 

 

 

 


型平は近所の公園の砂場に陣取り、悪の組織(のステレオタイプ)を待ち構えた。

 

 

 

 

 


「さぁ、出てこい、秘密結社ダークネス! この一文字型平が相手だ!」

 

 

 

 

 


当然、秘密結社など現れない。代わりにいたのは、砂場で遊んでいた幼稚園児たちとその保護者だった。

 

 

 

 

 


「ママ、あのおじさん何してるの?」

 

 

 

 

 


「シっ!見ちゃダメよ。あの人は不審者よ…」

 

 

 

 

 


保護者たちの冷たい視線を受けながらも、型平はポーズを崩さない。

 

 

 

 

 


「待て、悪の怪人よ! そこでお弁当を食べているサラリーマン! お前の正体は分かっているぞ!」

 

 

 

 

 


型平はベンチで静かに昼食を摂っていた男性に詰め寄った。

 

 

 

 


「えっ、私ですか? ただの営業ですけど……」

 

 

 

 

 


「嘘をつけ! サラリーマンのフリをして、世界征服の作戦を練っているのだろう! さあ、正体を現すんだ! でないと、私の必殺技『型平キック』を食らわすぞ!」

 

 

 

 

 


型平が片足立ちでフラフラしながらポーズをとると、男性は困惑して立ち上がった。

 

 

 

 

 


「いや、本当に困ります。警察呼びますよ?」

 

 

 

 

 


「おお! 警察を呼ぶという行為は、ヒーローが正義の味方として誤解される際のステレオタイプな展開! 望むところだ!」

 

 

 

 

 


そこへ、実際に通報を受けた巡査が自転車でやってきた。

 

 

 

 

 


「はいはい、どうしましたか。……うわっ、何ですかその段ボールは!」

 

 

 

 

 


「警官よ! この男は怪人だ! 早く応援を呼べ! ヘリコプターと装甲車を用意しろ!」

 

 

 

 

 


型平が叫ぶと、巡査はため息をついた。

 

 

 

 

 


「一文字さん、またあなたですか。この間は泥棒の格好で走ってたでしょう。今日はヒーローですか…」

 

 

 

 

 


「ふっ、警察に正体がバレているというのも、ヒーローの苦悩という型だな。だが、私は止まらんぞ!」

 

 

 

 

 

 


その時、公園の近くの工事現場で、大きなクレーンが揺れた。ワイヤーが切れかかり、鉄骨が今にも落下しそうになっている。

 

 

 

 

 


「危ない!」

 

 

 

 

 


人々が逃げ惑う中、型平はバケツのヘルメットを叩いた。

 

 

 

 

 


「これだ! ピンチに颯爽と現れるのがヒーローの型!」

 

 

 

 

 


型平は段ボールのスーツをガサガサ鳴らしながら、落下地点へと走り出した。

 

 

 

 

 


「無茶だ、戻れ!」

 

 

 

 

 


巡査が止めるのも聞かず、型平は鉄骨の下で両手を広げた。

 

 

 

 

 


「はあああ! 一文字バリアー!」

 

 

 

 

 


その時、奇跡が起きた。いや、正確には工事作業員が緊急ブレーキを間に合わせたのだが、型平の視点では、自分の段ボールの腕が鉄骨を空中で静止させたように見えた。

 

 

 

 

 


「……止まった? おじさん、本当にヒーローなの?」

 

 

 

 

 


子供たちが目を輝かせて駆け寄ってきた。

 

 

 

 

 


「ふっ……。礼には及ばん。私はただ、型を守っただけだ!」

 

 

 

 

 


型平は格好よく背中を向けた。その瞬間、背中の「一文字」と書かれた紙が剥がれ、風に舞った。

 

 

 

 

 


「さらばだ! またどこかで型が乱れたときに現れよう!」

 

 

 

 

 


彼は全力で走り去ったが、段ボールの脚が絡まって盛大に転んだ。しかし、彼はそれさえも「コメディリリーフとしての型」として、笑顔で立ち上がったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 


第五章:ステレオタイプの終焉と、新たなる型

 

 

 

 

 


数々の「型」を演じきった型平は、ついに究極のステレオタイプに挑むことにした。それは「伝説の引退した達人」である。彼は山奥のボロ小屋を借り、白い付け髭を長く伸ばし、常に目を閉じ、杖をついてゆっくりと歩くようになった。

 

 

 

 

 


「達人といえば、若者が教えを乞いにやってきて、最初は追い返すが、最終的には奥義を伝授して静かに息を引き取るものだ!」

 

 

 

 

 

 


型平は小屋の前で、一日中座禅を組んで待った。そして一週間後、ようやく一人の若者が現れた。あの、第一章で泥棒の型平を追いかけたVRゴーグルの若者だった。

 

 

 

 

 


「あ、やっぱりここにいた。おじさん、SNSで今、有名だよ。『生きる絶滅危惧種・ステレオタイプおじさん』って。ファンクラブまでできてるよ!」

 

 

 

 

 


「黙れ若者! 私は今、大自然と一体化しているのだ。私に教えを乞いに来たのなら、まずはそのチャラチャラしたメガネを捨てなさい!」

 

 

 

 

 


「いや、これ仕事なんですよ。おじさんの動きをモーションキャプチャして、格闘ゲームの隠しキャラにするっていう契約で!」

 

 

 

 

 


 
型平は目を見開いた。

 

 

 

 

 


「ゲームのキャラ……だと? 私が、デジタルという無機質な世界に閉じ込められるというのか!」

 

 

 

 

 


「そうですよ。おじさんの『泥棒走り』とか『引退した達人』とか、めちゃくちゃ人気出ると思います!」

 

 

 

 

 


型平は考えた。自分がデジタル化されることは、ステレオタイプの敗北ではないか。しかし、若者は続けた。

 

 

 

 

 


「おじさんがゲームになれば、世界中の子供たちが『ステレオタイプな泥棒』や『ステレオタイプな達人』を知ることになるよ。おじさんは、永遠の『型』になるんですよ!」

 

 

 

 

 


その言葉は、型平の魂を震わせた。

 

 

 

 

 


「……永遠の型か。悪くない。よし、若者よ。私のすべてを記録するがよい!」

 

 

 

 

 


型平は小屋を飛び出し、全力で泥棒の抜き足差し足を披露し、額の鏡を光らせ、タイプライターを叩き、段ボールで空を飛ぶフリをした。若者は感心しながら、最新のカメラでその姿を収めていった。

 

 

 

 

 


数ヶ月後。世界中で大ヒットした格闘ゲームに、隠しキャラ「カタヒラ」が登場した。彼は唐草模様の風呂敷から包丁を取り出し、額の鏡で敵の目を眩ませ、タイプライターの振動で地震を起こす。そのあまりにも不条理でステレオタイプな攻撃に、世界中のプレイヤーが爆笑し、そして魅了された。

 

 

 

 

 


「このキャラ、意味不明だけど最高だ!」

 

 

 

 

 


「昔の日本にはこんな泥棒がいたのか? 最高にクールじゃないか!」

 

 

 

 

 


一方、現実世界の型平は、再び街に立っていた。今度は、誰の真似でもない、彼自身の「型」を確立していた。彼は街で見かける「型破りなもの」を注意して回る、「ステレオタイプ監視員」という新しい型を作り出した。

 

 

 

 

 


「これ君! 最近の泥棒は黒ずくめすぎる! もっと唐草模様を愛しなさい!」

 

 

 

 

 


「お医者さん! 鏡をつけなさい! 反射させてなんぼだ!」

 

 

 

 

 


人々は彼を見て、「ああ、またカタヒラさんが始まったよ…」と笑いながら手を振る。型平は満足そうに泥棒髭を撫でる。彼は気づいていた。ステレオタイプとは、過去の遺物ではない。それは、人々が共通して持っている「お決まりの安心感」なのだということを。

 

 

 

 

 

 


「よし、今日も世界は型通りだ。……おっと、あそこの看板の文字が少し斜めだな。看板屋といえば、ハチマキをして筆で書くもの。修正しに行かねば!」

 

 

 

 

 


 
型平は、風呂敷を背負い、抜き足差し足で雑踏の中へと消えていった。彼の背中には、太陽の光を受けた額の反射鏡が、黄金色に輝いている。それは、失われかけた「共通言語」を守り続ける、孤独な戦士の輝き。街のどこかで、またパチパチとタイプライターの音が聞こえてくる。一文字型平の物語は、これからも「型通り」に、そして予想外に、続いていく?!