第一章 しっぽの消えない男の子
深い山々の奥、古い大きな杉の木が立ち並ぶ森のなかに、狐の親子が暮らす小さな穴ぐらがありました。父親の名は源五郎といいます。このあたりでは誰もが知る化け術の名人。源五郎がひとたび息を吹きかければ、ただの木の葉が光り輝く金貨になり、古びた丸太が立派な殿様の駕籠へと姿を変えます。近所の狸や鼬たちは、源五郎の化け術を見るたびに手を叩いて驚き、憧れの眼差しを向けていました。
しかし、源五郎には大きな悩みがありました。それは、一人息子の佐吉のことです。佐吉はとても心優しい狐の男の子でしたが、どうにも化け術が得意ではないようでした。
「いいか、佐吉。化けるときに一番大切なのは、なりきる心だ。自分は人間だ、自分は人間なんだと思い込むのだぞ!」
源五郎は毎日、裏山の空き地で佐吉に化け術を教えていました。佐吉は真剣な顔で頷き、頭の上に大きな柿の葉を乗せます。そして「ポン」と小さな煙を立てて、人間の男の子の姿に変身してみせるのですが…
着物を着て、短い黒髪を生やした小さな男の子の姿。ここまでは完璧に見えます。しかし、源五郎が佐吉の後ろに回り込むと、いつでもため息をつくことになるのです。佐吉の着物の裾からは、ふんわりとした黄色いしっぽが、元気にゆらゆらと揺れているのです。
「佐吉、またしっぽが出ているじゃないか…」
「えっ、本当に? ちゃんと引っ込めたつもりだったんだけどなあ〜」
佐吉は慌てて自分の後ろを振り向き、両手でしっぽを隠そうとしました。しかし、隠そうとすればするほど、しっぽは緊張してピンと突っ立ったり、パタパタと素早く動いたりしてしまいます。
「はぁ、いかんな……お前は心が優しすぎるのだ。化け術というのは、相手を騙す術だ。自分の心を隠さなければいけないのに、お前はいつも正直すぎる。しっぽにまで気持ちが出てしまっているのだよ…」
源五郎は困った顔をしながらも、佐吉の頭を撫でてやりました。佐吉は申し訳なさそうに下を向きました。
「ごめんなさい、お父ちゃん。僕、一生懸命やってるんだけど、どうしてもお尻のあたりがムズムズして、しっぽのことを忘れられないんだ…」
村の狐の子どもたちは、すでに旅人に化けて握り飯をもらったり、地蔵に化けてお供え物を食べたりして遊んでいます。佐吉だけが、いつまでも化け術の試験に合格できません。どこへ行くにもしっぽが邪魔をして、すぐに人間に見破られてしまうのです。そんなある日、人間の村の方から、今まで聞いたこともないような大きな音が響いてきました。
「ゴーン、ゴーン、ゴーン」
重く澄んだ音が、山全体に低く響き渡ります。佐吉は驚いて耳をピンと立てました。
「お父ちゃん、今の音は何? 雷の音じゃないよね?」
源五郎は村の方向を見つめながら、静かに語り始めました。
「あれは、人間の村に新しく作られた時計塔の鐘の音だ。村の真ん中に大きな石の塔が建って、その一番上に、真鍮でできた大きな時計が据え付けられたのだよ!」
「とけい? とけいってなんだ?」
「時間を測る道具のことだ。カチコチと音を立てながら針が回って、決まった時間になると大きな鐘を鳴らす。人間たちはあの音を聞いて、朝起きて畑に行き、昼に昼飯を食べ、夕方になると家に帰るのだよ!」
佐吉は目を輝かせました。時間を測る道具というものが、どんな形をしているのか想像もつきません。
「なんか、すごいなあ〜」
「だがな、佐吉。あの時計ができてからというもの、人間たちは時間に追われるようになって、心の余裕を失ってしまった。山の動物たちにとっても、あの大きな鐘の音は少しうるさすぎるんだ…」
その日の夜、山の狐たちの長老である老狐が、源五郎の穴ぐらを訪ねてきました。長老の表情はとても真剣でした。
「源五郎よ、ひとつお前に頼みたいことがあるのだ…」
長老は言いました。
「あの村の時計塔のせいで、夜になっても村が賑やかすぎて、我々が静かに暮らせんのだ。噂によれば、あの時計の中には『真鍮の一番ネジ』と呼ばれる、純金のように輝く小さなネジがあるという。それが時計全体を動かす心臓なのだ。源五郎よ、お前の化け術で、その一番ネジを偽物とすり替えてきてはくれまいか?」
源五郎は腕を組み、深く考え込みました。長老の頼みを断るわけにはいきません。しかし、人間の村の真ん中に建つ塔に忍び込み、細かな機械のネジを盗み出すのは、化け術の名人である源五郎にとっても簡単なことではありません。
「わかりました、長老様。私がなんとかしてその一番ネジを持ち帰ってみせましょう…」
源五郎がそう答えると、脇で話を聞いていた佐吉が身を起こしました。
「お父ちゃん、僕も一緒に行っていい? 僕も手伝うよ!」
「だめだ、佐吉。人間の村は危険だ。お前はまだしっぽも隠せないのだぞ!」
「でも、お父ちゃんひとりであの塔に登るのは大変だよ。荷物持ちでも何でもするから、お願い!」
佐吉は必死の顔で源五郎の袖を引っ張りました。その背後では、やはり黄色いしっぽが激しく左右に揺れていました。源五郎はしばらく佐吉の顔を見つめていましたが、やがて小さく息を吐き出しました。
「……わかった。ただし、絶対に私の言うことに従うこと。そして、決して人前に姿を現してはならないぞ!」
「うん! 約束する!」
こうして、化け術の名人の父親と、しっぽの隠せない息子の旅が始まることになりました。
第二章 石の塔と真鍮のからくり
月が雲のうしろに隠れる真夜中、源五郎と佐吉は静かに山を下り、人間の村へと向かいました。昼間は賑やかな村も、夜になるとしんみりと静まり返り、家々の窓からはあかりが消えています。村の中央の広場には、黒々とした巨大な石の時計塔がそびえ立っていました。見上げると、首が痛くなるほどの高さ。塔のいちばん上には、丸い文字盤があり、暗闇の中でわずかに白い光を放っています。
「カチ……コチ……カチ……コチ……」
塔の内部からは、重々しい金属の噛み合う音が響いてきます。それはまるで生き物が息をしているかのようでした。
「佐吉、よく聞きなさい。父ちゃんは、これからあの塔の上まで登る。お前は塔の下で見張りをしなさい。もし人間が来たら、口笛で知らせるんだぞ!」
「うん、分かった!お父ちゃん、気をつけてね!」
源五郎は「ポン」と身を翻すと、黒い頭巾をかぶった忍びの姿に化けました。さすがは名人、衣の端から爪の一本に至るまで完璧な人間の姿です。源五郎はスルスルと壁の凸凹に手をかけ、まるで影のように素早く石塔を登っていきました。
一人残された佐吉は、ドキドキしながら塔のふもとの陰に身を潜めました。人間の世界は、草の匂いや食べ物の匂いが山の森とはまるで違います。冷たい風が吹き抜けるたび、佐吉の黄色いしっぽは不安で小さく震えました。
その時ガラガラと音を立てて、一人の男が広場に歩いてきました。手に小さな提灯を持った、時計塔の管理人の男でした。男はあくびをしながら、手に持った大きな鍵で塔の頑丈な木扉を開けようとしていました。
「大変だ! お父ちゃんが中にいるのに!」
佐吉は慌てました。口笛を吹こうとしましたが、口がカラカラに乾いてしまって、ひゅうひゅうと情けない音しか出ません。このままでは管理人が塔に入り、源五郎と鉢合わせになってしまいます。
「どうしよう、どうしよう……」
佐吉は必死で考えました。化け術で驚かせるか? いや、下手な化け術ではすぐに見破られて捕まってしまいます。
「しっぽ……そうだ!」
佐吉は大きな決断をしました。彼は「ポン」と煙を立てて、人間の男の子に変身しました。もちろん、お尻からは立派なしっぽが生えたままです。そして、佐吉はわざとドタドタと足音を立てて、管理人の前へ飛び出しました。
「あーっ! 大変だー!」
管理人の男は驚いて提灯を掲げ、佐吉を照らしました。
「なんだお前は、こんな夜中に子供が……ひえっ! し、しっぽが生えているぞ! 狐の化け物だー!」
男は目を丸くして叫びました。佐吉はくるりと背中を向け、お尻のしっぽをパタパタと大きく振ってみせました。
「おじさん、こっちだよー! 僕を捕まえてごらん!」
「この化け狐め、村を荒らす気だな!」
管理人はすっかり慌てて、時計塔の鍵を開けるのを忘れ、佐吉の後を追いかけて走り出しました。佐吉は一生懸命に小さな脚を動かし、広場から細い路地へと逃げ込みました。途中何度も転びそうになりながらも、父が仕事を終える時間を稼ぐために、必死で管理人を引きつけ続けたのです。
路地の奥でうまく木箱の影に隠れ、息をひそめた佐吉は、管理人が通り過ぎるのを確認して、ほっと胸を撫で下ろしました。
「ふう、うまくいったぞ……お父ちゃん、大丈夫かな…」
佐吉が再び時計塔の下に戻ると、塔の上からすーっと影が降りてきました。黒頭巾の源五郎でした。源五郎は無事に塔の中に忍び込み、一番ネジを手に入れることができたようでした。
「佐吉! 無事だったか! さっき大きな声が聞こえたが……」
「お父ちゃん! 僕、人間をあっちに追っ払ったんだよ!スゴいでしょう!」
源五郎は驚いた顔で佐吉を見つめました。佐吉のお尻のしっぽは、誇らしげにピンと突っ立っていました。
「僕のしっぽはすぐ見破られちゃうから、逆に見破らせてびっくりさせちゃったんだ!」
源五郎は一瞬言葉を失いましたが、やがて優しく笑い、佐吉の肩を強く抱きしめました。
「大したものだ、佐吉。お前は自分の弱みを、立派な強みに変えたんだな!」
佐吉はとても誇らしい気持ちになりました。
第三章 止まった時計と村の涙
山へ戻った源五郎と佐吉は、持ち帰った真鍮の一番ネジを長老に見せました。長老は大喜びで、ネジを固い石の箱の中に閉じ込め、二人の働きを大いに褒め称えました。
次の日の朝、人間の村からは、いつも聞こえるはずの「ゴーン」という大鐘の音が聞こえてきませんでした。「カチ……コチ……」という歯車の音も完全に止まり、時計塔の大きな針は十二時の位置でピタリと止まったままでした。
最初は、山の動物たちも大喜びでした。静かな朝が戻り、小鳥たちは心置きなく歌い、兎や鹿たちも穏やかに草を食べることができたからです。しかし、二日、三日と日が経つにつれて、山の雰囲気は少しずつ変わっていきました。佐吉は気になって、時々村の近くまで降りて様子を観察しました。そうすると村の中は、思っていたような平穏とは程遠い状態になっていたのです。
畑へ行く時間が分からなくなった農夫たちは、朝寝坊をしたり、暗くなるまで働きすぎて体調を崩し、村の小さな学校では、子供たちがいつ登校すればよいのか分からず、バラバラの時間に集まっては、困り顔で止まった時計塔を見上げていたのです。
(時計が動かないと、みんながバラバラになっちゃうのかな……)
佐吉は心が痛んでいました。村の人々は、時計の音に合わせて協力し合い、一緒にご飯を食べ、一緒に学校や仕事を終えて家族のもとへ帰っていたのです。時計はただうるさい音を立てる道具ではなく、人々の心と生活をひとつに繋ぎ止める大切な存在だったのです。
ある夕方、佐吉は時計塔の下で泣いている小さな女の子を見かけました。女の子は膝を抱えて、ぽろぽろと涙をこぼしていたのです。佐吉は我慢できず、葉っぱを頭に乗せて男の子の姿になり、女の子に近づきました。もちろん、着物の後ろからは黄色いしっぽが出ています。
「ねぇ、どうしたの? なんで泣いているの?」
女の子は顔を上げ、涙を拭きながら言いました。
「お医者様がね、隣の町からやってくるはずなの。お母さんの病気の薬を持ってきてくれるの。でも、時計が止まっちゃったから、お医者様が何時に着くのか分からないの……私、ずっとここで待っているのに、ぜんぜん来ないの……」
(僕たちのせいだ……僕たちが時計のネジをとっちゃったから……)
佐吉は女の子の肩をそっと叩きました。
「大丈夫だよ。きっと時計はまた動き出すよ。僕が動かしてみせるから!」
「えっ?本当に!あなたは誰……? あ、背中にしっぽがついている……」
女の子が気づいたときには、佐吉はすでに夢中で走っていました。山の中の穴ぐらを目指して、脇目もふらずに駆け上がっていきました。穴ぐらに飛び込むと、源五郎が静かに道具の手入れをしていました。
「お父ちゃん!お願いがあるんだ!あの時計のネジを、人間に返してあげたいんだ!」
源五郎は手を止め、驚いたように佐吉を見つめました。
「何を言うのだ、佐吉。あれは長老様からの頼みで持ち帰ったものだ。それに、あの音は山の静けさを奪うと言っていたではないか!」
「でもね、お父ちゃん!時計が止まったせいで、人間のみんながすごく困っているんだよ!病気のお母さんのために薬を待っている女の子もいるんだ! 僕たちは、静かになったけれど、誰も幸せそうじゃないよ!」
佐吉は涙をこぼしながら、必死で父に訴え続けました。
「僕、誰かが悲しんでいるのを知っていて放っておくなんて、そんなの嫌だよ!」
佐吉の背後で、黄色いしっぽが小さく、切なく揺れていました。それは、佐吉の純粋な優しさそのものでした。
第四章 二人の職人と金色のからくり
源五郎は立ち上がり、棚の奥から長老がしまっていた石の箱を取り出しました。
「佐吉。お前の言う通りかもしれないな。他人の不幸の上に成り立つ平穏など、本当の平穏ではない。私も、時計を失った人間たちを見ていて、心が痛んでいた…」
「お父ちゃん……じゃあ、返してくれるの?」
「ただ返すだけではだめだ。長老様や山の仲間たちも納得させなければならない。それに、もう一度泥棒のように忍び込んでネジを戻しても、人間たちに疑われるだけだ…」
しかし、源五郎は笑みを浮かべました。
「正々堂々と行こうじゃないか。お前のそのしっぽも、隠さずにそのまま使ってな…」
「お父ちゃん、どういうこと?」
「見破られるのを恐れるから失敗するのだ。ならば最初から、驚くべきからくりとして見せてやればいい。いくぞ、佐吉!」
源五郎は真鍮の一番ネジを取り出すと、自らの爪と牙、そして不思議な術を使って、ネジの表面に特別な模様を刻み込みました。それは、夜空の星と山の木々が織りなす、見たこともない模様でした。
その夜、二人は再び村の広場へと向かいました。今度は忍び足ではありません。堂々と胸を張って、時計塔の前に立ちました。源五郎は「ポン」と大きな煙を上げ、色鮮やかな衣装を纏った「遠い国から来た伝説のからくり職人」の姿に化けました。そして佐吉も「ポン」と煙を上げ、男の子の姿になりました。もちろん、着物の裾からは、ふんわりとした黄色いしっぽが堂々と出たままです。
「村の人々よ!お聞きなさい!」
源五郎が大声を張り上げると、止まった時計塔を心配して集まっていた村人たちが、ゾロゾロと集まってきました。
「私は流浪のからくり師!この塔の時計が悲鳴を上げているのを聞きつけてやってきた!我が助手のからくり少年とともに、この時計に新たな命を吹き込んで見せよう!」
村人たちはざわめきました。
「さあ佐吉、登るぞ!」
源五郎と佐吉は、村人たちが見守る中、堂々と時計塔の階段を駆け上がっていきました。塔の一番上の機械室に辿り着くと、巨大な歯車たちが静まり返っていました。源五郎は手際よく工具を取り出し、機械の中央にあるネジ穴に、あの美しく彫刻された真鍮の一番ネジを差し込みました。
「さぁ、佐吉、最後の仕上げだ。お前の力を貸しておくれ!」
「うん!」
佐吉は一番ネジにそっと手を触れました。
「動いて!みんなのために、動いて!」
すると、一番ネジからパッと眩い光が溢れ出し、それが伝線のように巨大な歯車たちへと広がっていきました。
「ジー……ガチャン!」
止まっていた巨大な歯車が、ゆっくりと動き始めました。カチ、コチ、カチ、コチ。力強い音が、塔の中を満たしていきます。そして、文字盤の裏側にある巨大な槌が持ち上がり、深く、どこまでも澄み切った鐘の音が、夜空へと響き渡ったのです。
「ゴーーーン! ゴーーーン!」
第五章 鐘の音は二つの世界を繋ぐ
鐘の音が村中に響き渡ると、広場に集まっていた村人たちから、割れんばかりの歓声と拍手が巻き起こりました。
「時計が動いたぞー!」
塔の上に立つ源五郎と佐吉は、顔を見合わせてニッコリと微笑み合いました。その時、塔の階段を駆け上がってくる二つの足音が聞こえました。村長と管理人の男でした。
「素晴らしい! 素晴らしい技だ、からくり師殿!
時計の音も以前より良い音を立てている気がする。一体、どんな魔法を?」
源五郎は静かに首を振りました。
「魔法などではありませんよ。この時計に必要なのは、ただ動かすことではなく、みんなの心によりそう優しさだったのです。ここにいる我が助手の心が、時計に命を吹き込んだのです!」
村長と管理人は佐吉の方を振り返り、そのお尻からゆらゆらと揺れる黄色いしっぽを感心したように見つめました。
「それにしても、この助手のからくり人形の見事なこと!本物の狐の子供にしか見えませんな。しっぽの動きの自然なことといったら!」
佐吉は思わず「くすっ」と笑ってしまいました。化け術が下手で隠せなかったしっぽが、今や一番素晴らしい技術だと褒められているのですから。
「村長さん、この時計はね、夜の間は少しだけ鐘の音を小さくするようにしておいたよ。人間も、森の動物たちも、夜は静かに眠りたいよね?」
佐吉がそう言うと、村長はハッとしたように目を見張って、深く頷きました。
「……なるほど。私たちは自分たちのことばかり考えて、夜の静けさや、他の生き物たちのことを忘れていたのかもしれませんな。教えられましたよ、小さな助手殿!」
村長と管理人は、お礼として二人にあたたかい焼き芋と、金色の小さなリボンをプレゼントしました。
仕事を終えた二人は、朝日が昇る前に、静かに村を後にしました。
山へ戻る道すがら、朝焼けの空に爽やかな風が吹き抜けていきました。村からは、「ゴーン……」という朝の鐘の音が聞こえてきます。それは森の動物たちの耳にも、決してうるさくは聞こえず、一日の始まりを告げる心地よい調べとなって届いていました。人間と動物、二つの世界を繋ぐ新しいルールが、時計塔の中に刻まれたのです。
穴ぐらに戻った源五郎は、貰った金色のリボンを袋から取り出すと、佐吉の黄色いしっぽの先へ、ちょん、と優しく結んでやりました。
「お父ちゃん、何するんだよ?」
「合格の印だ…」
「佐吉。お前は立派な化け術師だ。相手を騙す術ではなく、みんなの心を幸せにする最高の化け術を、お前はすでに身につけている…」
「そうかな?」
佐吉は嬉しくて、金色のリボンがついたしっぽをパタパタといつまでも振り続けました…